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たまっていた請求書の処理を終わらせた時だった。来客を知らせるドアチャイムが鳴り響く。今事務所には中嶋、小杉しかいない為依頼を受け持つのは中嶋だ。小杉はドアに駆け寄り来客の対応、中嶋は依頼内容を受ける準備を始める。基本は予約、アポイントメントなのだがいまだに駆け込み需要も稀にある。気軽にご相談ください、と広告を出しているので基本は追い返さないようにしている。
小杉がドアを開け、笑顔で対応する。
「佐藤探偵事務所……でございます。ご依頼でしょうか?」
探偵事務所、の後に一秒の沈黙があった。なんだ、と思い中嶋と一華がドアの方を見る。するとそこにいたのは中年の男性だった。その隣には中年の女性。
「ええ、あの、突然すみません。予約とかしてないんですがお願いできるでしょうか」
「大丈夫ですよ。……事前確認がないので、初めからお話を伺いますので少々……お時間を頂きますが」
「ああ、それで構いません。よろしくお願いします」
丁寧な物腰の男性。その隣の中年女性は一言もしゃべらない。その女性を見た中嶋、一華は思わず固まる。小杉はところどころ言葉の中に沈黙があるが、一応笑顔で対応していた。
至って普通の男性。その隣にいるのはまったく普通ではない女性だった。何故ならその女性は鬼のような形相で、ずっと男性の首を絞め続けているのだ。そしてずっと「死ね」を繰り返し続ける。
男性は苦しがっている様子はない。平然としている男性と、必死に首を絞める女。一部だけ壮絶なその光景に、中嶋も小杉も幽霊である一華もドン引きしていた。男性を中に招き、中嶋は一華に小さく告げる。
「部屋から出てろ、お前がアレに見られるとやっかいかもしれない」
『りょーかい』
「お話をまとめさせていただきます。最近下手をすれば命にかかわる不吉な出来事が多い。心当たりは一人いるのでその人物の身辺調査をということでよろしいですね」
話を聞いた中嶋がメモをまとめ、男性に確認する。男性はため息混じりに頷いた。
交差点で信号待ちをしていると誰かに後ろから押され危うく轢かれかける、マンションの下を通ると植木鉢が落ちてくる、鍵をかけて寝たのに起きたらドアが開けっ放し、帰ってきたらガスが漏れていた。あげるときりが無い。
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