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遠藤一華がこの探偵事務所に現れた、文字通りある日突然「出現」したのは三ヶ月前の事だった。事務所内には神棚があり、毎朝朝礼でこれを拝むのがルールとなっている。
所長の佐藤曰く、「法に触れるスレスレのことしてるから神様には媚を売っておこう」ということらしい。スレスレどころか普通に触れる事をしているので意味ないだろ、というのが中嶋聡の言い分だが。
そんなある日、この神棚の近くに一華が現れたのだ。重力など関係ないので、天井に寝転ぶというトリックアートのような格好で眠っていた。声をかけても反応なし、現れて一ヶ月ほどは起きず、ずっと眠ったままだった。
そうして目覚めたのが二ヶ月前。何故自分が死んだのか、何故ここに現れたのか本人はまったくわからないようだった。
この探偵事務所には非常勤やバイトも含めると二十人ほど在籍しているが、幽霊が見えるのは所長の佐藤、浮気調査など尾行張り込み専門の中嶋聡、事務作業担当の小杉綾乃の三人だけだ。三人で相談して一華をこのままここに置く事にした。
理由は単純、人手が欲しかったからだ。ネットの普及とコミュニケーションの悪さが酷くなっていく昨今、どうでもいいと思えるような人間関係調査が毎年増加の一途だ。浮気だけでなく同僚からどう思われているか、取引先は本当に契約してくれそうかなども含めると業務はパンパンだ。姿が見えず絶対ばれることのない一華は非常にありがたい存在だったのだ。
加えて一華は何故か成仏することができなかった。知り合いの坊主に経をあげられても、悪霊払いの除霊をしても、除霊は途中で一華がキレて中止となったのだが、一華はこの世にとどまり続けている。
行くところもない、他にやる事もないということですんなりOKしてくれたのも話がとんとん拍子で進んだ要因といえる。
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