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依頼人がイカれていては話にならない。この話が本当かどうか調べてから調査の方向を決めるのが今のやり方だ。依頼人との信頼関係などという前世紀の幻想などありはしない。正義や倫理などではなく、探偵事務所など金の為にやっているのだからそのあたりの下調べは必要だ。
依頼とは契約、それは定義がある。自分は客なのだから何を言っても許されると思う依頼人は多い。ケチをつけるだけならまだいいが、自分が探偵ごっこのような事を始める者まで増えてきている。そういう時は厳重注意と悪質な場合は法的手段で黙らせている。
緊急性がある場合はその場で一華が口を挟むが、特にない場合は依頼人を帰してから今後の方針を練ることにしている。そうしないとうっかり一華の発言に相槌をうってしまい、変な奴だと思われてしまう。依頼人が帰ったのを確認して中嶋は一華に聞いた。
「で、どうだった今のは」
『噓とかはついてない。確かにターゲットの人とは昔からトラブルがあったみたい』
「殺してやるの脅迫文、無言電話、会社への実名挙げての迷惑行為に名誉毀損。ま、あげたらきりがないけどな。何で最近になってやり方がえげつなくなったのかは知らんがそこはどうでもいい、証拠見つけてサクっと終わらせるぞ。一華、トラブル女の張り込み頼む」
『はいはーい』
そう言って一華は消えた。生前行った事がある場所や知っている人物のもとには一瞬で移動できる。これも幽霊の便利な点だ、交通費がかからないし移動時間もない。ただし行った事がない場所などには通用しないので、一度誰かと一緒に行く必要はあるが。今回はバイトをしていた場所に近いという事で問題ない。
「でも良いんですか? バイトしていた場所に近いということは、知り合いを見つけるのでは」
小杉が心配そうに言う。今一華は特に未練も何もないので浮遊霊だが、何かに執着したり悲しみに暮れたりするとあっという間に自縛霊や悪霊になってしまう可能性がある。見た目では死んだことを受け入れているようだが、まだ十六歳の少女なのだ。生きていた頃の思い出を前に平然でいられるかどうかが心配だった。
「大丈夫だろ。バイト先に凄く仲良かった奴もいないみたいだからな。殺されてる以上殺した奴への憎しみが悪霊への道だ。そのときの記憶がないうちはそういうモンになる可能性は低い」
「そうですけど。そういうのになりたくないからってご家族の様子も見に行ってないんですよね一華ちゃん」
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