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裏口に手をかけると鍵がかかっている。ふむ、と少し考えると一華が首だけドアをすり抜け鍵を確認する。頭だけドアの向こうにあるという図がなんともシュールで一昔前のコントを見ている気分になるが、これはこれで便利だったりする。
『古い鍵だね。学校の非常口とかについてそうな』
「ああ、ノブの真ん中にあるつまみを縦横に動かしてかけるやつか」
『お、今の説明で通じるんだ』
「学校の侵入もするから」
『そういう理由?』
なんでも知ってるなあ、と少し感心しかけたのだが言われてみれば詳しい理由なんて仕事で使うからだ。それにしても学校に侵入する依頼って一体、と気になる。
ピッキングツールを取り出すと、一華が中嶋に憑依する。暗いのでライトを使って照らすより、一華に憑依してもらって「目」を借りたほうがリスクが少ない。
憑依の使い方は様々だ。通常は一華がとりついた人間の能力をつかえたりするのだが、霊感のある人間はコツを掴めば逆に一華の能力を使う事ができる。一華の記憶を見せてもらったりできるのもその使い方の一例だ。
幽霊は夜目が利くと分かったときも真っ先に思い浮かんだのは「ピッキングに使える」という点だった。
『ろくでもないことを直ぐに思いつくねー』
頭の中に一華のツッコミが響いた。うるせ、と内心で返す。憑依している間はお互いの思考が読めたりする。そうさせない方法もあるが、今は読まれて困ることもないのでそのままだ。
一分もたたずあっという間に鍵が開いた。そっと開けば、普段はあまり使っていないらしく荷物が置いてあり足の踏み場がない。一華の目を借りているのではっきり見えるが、気をつけないと蹴倒して物音を立ててしまいそうだ。
家の中に人の気配はない。しかし廊下の奥にある部屋からはわずかに光が漏れており、微かに何かの音が聞こえてくる。
あの部屋だ、と一華が言おうとしたときだった。
「やめてええええええ!」
明らかに悲鳴と思われる叫び声が聞こえてきた。
「……」
『……』
思わず二人とも沈黙する。憑依している一華は確かに、中嶋の「あ、帰ろうかな」という思考を読み取った。
『はよ行け』
「はいはい」
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