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小杉は娘の自殺した場所の近くまで行ってみたのだという。普段なら自殺や事故の現場にはあまり良い状態ではない事……つまり自縛霊や悪霊になってしまっていることが多いので近づかないのだが、亡くなってまだ日が経っていないことからまだ間に合うと思ったからだ。
少女の霊は案の定マンションの敷地内にいた。飛び降りた現場からは少し離れた、道路に近い場所だった。彼女の雰囲気はひんやりとした、浮遊霊の気配だったので危険はないと判断し話しかけた。
最初は小杉の存在に驚いたようだが、死んでから初めて会話ができる人物としてあっという間に心を開いてくれた。
彼女は泣きながら自分にあった事を話してくれた。大方はレボリューションの事だったが、後は相手の男性についてだった。おまじないをしているから大丈夫、という思いが後押しさせ、声をかけたらそのまま話し込みすぐに仲良くなった。そんな事がおまじないをした効果があったのだと信じ込んでしまったのだろう。
数日も経たないうちに彼と初体験までしたという。これで思いが叶ったと思っていたが、次に会いに行った時、そこには知らない女がいてキスしていたというのだ。どうして、と思い聞いてみれば彼は笑いながら……ついでに一緒にいた女も笑っていてこう言った。
「あ、お前もうやっちゃったし用ねーわ。バイバイ」
本当におかしそうに、なんでもない事のようにそう言われた。隣にいた女に至っては恋人になっていたとよくその顔で勘違いできるものだとおかしそうに笑われた。一回やっただけで恋人とか昭和かよ、と二人で大爆笑していたのだ。
その後の事はあまり覚えていない。何を言ったのか、何を言われたのか。ただ、気がついたら自宅に帰ってきていて友人達と連絡をして、そのままふらりとベランダに出ていたという。
そこまで話を聞いて、どう声をかけようかと悩んだ。何も言っても彼女には慰めにはならないし、次を応援することもできない。もう、彼女は死んでしまっているのだから。
おまじないの効果でもなんでもなく、単に暇つぶしに馬鹿な女を食っただけだったと気づいたのは死んでからだったとぐすぐすとすすり泣く中、後ろから明らかに彼女のものではない鼻をすする音が聞こえた。不思議に思い振り返れば、そこには大きなキャットフードを抱えた総弦が立っていた。
「……何してるんですか総弦さん」
「たまたま通りかかったらアンタが見えたから……この間の事文句言おうとしたら……可哀想に……」
ぐっと眉間に皺を寄せて悔やむような表情をする総弦を見て、内心ポカンとするがすぐにわかった。
(ああ、他人に騙される=詐欺と共通するものがあるから同情したんだ……幽霊嫌いなのにその辺の線引きよくわからないけど、まあいいか)
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