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幽霊と見るなり殴りかかってくるよりはマシだ。この様子なら頼めば聞いてくれるかもしれない。
「総弦さん、この子成仏させてあげることできますか? 貴方もね、ずっとここにいてはダメ。ずっといるとそのまま苦しい思いをし続けなければいけないから」
『私……消えちゃうの? いやだ、怖いよ……』
じわっと目に涙を浮かべる少女の肩を抱きこむように腕をまわす。小杉は霊に触ることができないので形だけになってしまうが、少女は驚いたように小杉を見た。
「成仏は消滅じゃないよ、次の人生への入り口。次はもっと幸せになるよう、違う方法で頑張ってみよう? きっと貴方を助けてくれる人に出会えるから」
優しく微笑んで言うと、少し迷ったようだが涙を拭いて小さく頷いた。少女には悪いが迷ったり思いが強くなりこの世にとどまってしまう前に浄化させる必要がある。寂しさや悲しさに打ちひしがれている今が絶好のチャンスだった。総弦も異論はないようで近づくが、あ、と一言漏らした。
「数珠ねえや……まあいいか、なくてもできるから」
仏道についてはよくわからないが、なんとなく今の一言が凄いことなのではないかという気がした。以前中嶋からは総弦は父親や祖父よりも強い法力があると聞いているし、おそらく普通は数珠が必要なところを彼は省いても問題ないのだろう。これだけの能力があっても住職にはなりたくないと言っているのがもったいない気がする。
(まあ、才能があるって事が必ずしも幸せなことじゃないか)
自分もそうだ。この能力のせいでたくさん傷つき、人間扱いされず、家族と縁を切った。
「……それで、その場で総弦さんの浄霊によって無事成仏しました」
最後の自分の胸中は語らずに、その時あった事だけを説明した。少女の浄霊は総弦と小杉が見送ったので間違いない。
『よかったー。それ聞けただけでも安心しました』
ほっとした様子の一華と、腑に落ちないとでも言いたそうな顔の中嶋。中嶋の反応はもっともだ。霊感がある人間ほど霊との接触は避ける。いくら今回安全だったといっても、浮遊霊が皆無害なわけではない。余計なことに首は突っ込まないのが一番安全だと小杉自身もわかっているはずだ。
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