お祭り前夜の6時間

6/14
前へ
/14ページ
次へ
 「普通のお面は、800円だけど、あんたが選ぶお面には、値段がつけられるかね?好きなお面をひとつもっていくといいよ。お面をかぶって寝たら、あんたが見たい思い出がみれる。ただし、6時間たったら思い出は消えて・・」  俺は吸い寄せられるように母親のお面を手にとった。  手触りは、プラスティックで、普通のお面と変わりない。  「ダイジョウブじゃよ。他の人には、キティちゃんのお面に見えとるわい。」  神社を出た頃には、真夜中近くになっていた。さっきまで灯りがついていた屋台も豆電球のみになり、薄暗くなっている。  俺は家路を急いだ。  ----------------------------------------------------------------------------  家に着くと、残業で遅くなると話していたからか、明日がお祭りだからか、妻と奈津子は寝てしまったらしい。電気も消えて真っ暗だった。  普通なら、ラップのしてある夕飯を食べて、お風呂に入るところだが、今は、それどころではない。  お面の事が気になる。 しんと静まりかえった部屋の中、俺は自分の部屋に入った。  鞄の中から、お面をとりだす。間違いなく俺の母親の顔だ。シュールというよりは、なぜか、懐かしい気がする。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加