お祭り前夜の6時間

9/14
前へ
/14ページ
次へ
 そうだ、俺はこの時に、正直に言うかどうか悩んだ。  医者は、癌だが取り除かず、延命治療の為、抗がん剤を打つ事を母親に話をした。  「達也、母さんが癌だって先生に言われたけど、癌ならその細胞を手術で取り除いたらいいんじゃないかい?今さら、胃だの腸だの取ってしまっても、母さんは何の未練もないよ。それで治るならそうしておくれよ。」  母親はそう俺に言った。  治るならそうしている!どれだけ俺が叫びだしたかったか!  ただ、治らないとも言えなかった。  だが、あの時、もし、治らないとわかったら、入院せずに自宅で過ごす事を望んでいたかもしれない。  俺の記憶では、このまま母親が亡くなっていく。だが、もし、ここで、余命の話をしたら何かが変わっていたのだろうか・・・。  思い出をみるだけで、俺の行動は変えられないのか!これじゃ単なる悲しい思い出を見せつけられるだけじゃないか!こんなお面を選ばない方がよかった!  「達也。」  俺は急に呼ばれて後ろを振り返った。  そこにはベッドで寝ていたはずの母親が満面の笑みで立っていた。  「か、かあさん!」  「達也、会いに来てくれたんだね。」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加