聖前戦

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 雪が降り積もる深夜近い街の片隅。  どこかの屋根の上で腹ばいになりながら彼は双眼鏡を覗いていた。 「こちらレッド1、レッド1。本部応答を。どうぞ」 「こちら本部どうしたレッド1。どうぞ」  彼は双眼鏡を覗きながら無線に叫んだ。 「本部、問題が発生した。最後の対象がまだ眠っていない。このままでは日付が変わってしまう!どうぞ」 「こちら本部、光源を確認した。対象はゲームをして起きている。繰り返す、対象はゲームをして起きている!」  無線の向こうでざわめきが上がる。  彼は寒さで青紫色に変色した唇を噛みしめた。 「……こちらレッド1。本部、催眠弾の使用許可を要請する、どうぞ」  瞬間、無線の向こうから怒声が轟いた。 「ダメだレッド1! それは保護者に発見された際の逃走用だ! 使用は許可できない。子供には効果が強すぎる。どうぞ!」  対照的に、彼は懐から銃を取り出して静かに立ち上がった。  吹雪き始めた視界の中、温かな部屋でただ一人の小さな人影を見つめて無線に告げる。 「……こちらレッド1。あと数分で前夜が終わっちまう。俺達の仕事は明日、目が覚めた奴らに笑顔を届けることだ。そうだろ、本部」  乱暴な口調で彼が告げると、無線の向こうの声は苦虫をかみつぶしたように押し黙った。  彼は――レッド1はそれを肯定と捉えて唇の端をゆるく吊り上げ、無線に告げた。 「本部、こちらレッド1。現時刻、二三(フタサン):五五(ゴーゴー)をもって作戦名『聖夜の贈り物』を決行する。催眠弾の許可を」 「こちら本部。催眠弾の使用を許可する。健闘を……祈る」  無線が途切れる。吹雪が彼の邪魔をするように強くなる。  白くなる視界の中で彼の視線は対象のみに注がれた。 「メリークリスマス。ちょっと早いけどな……」  彼は微笑みながら引き金を引いた。  温かな部屋の中の小さな人影はコテンと倒れた。  双眼鏡でそれを確認した彼は巨大な袋を軽々と担ぎ、屋根から飛び降りるのだった。
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