第一話 星見酒と月の蝶

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 穂乃花には視えて、雪斗や他の人には視えない、「おかしな隣人」たち。  数日この家で過ごして、隣人の多さに驚いた。  洗濯物を干していると花壇の影に。寝ていると縁側に。お風呂場の窓に見かけたときは、さすがに不審者かと声を上げて雪斗を驚かせてしまった。 「おかしな隣人」は、他の人が言うところの妖怪とか、あやかしとか、神様とか、そういうものだろう。人の世の隣に住まう者。人の世の、ちょっと変わったお隣さん。  視えることは、他の人には秘密だ。普通の人に話せば怖がられる。 『穂乃花さん、怖いこと言わないで』  穂乃花は、雪斗の母の目を思い出すと、ぎゅっと心臓を掴まれたような気分になる。  雪斗の実家に遊びに行ったとき、部屋にいた隣人に声をかけているのを見られたのだ。空気がぴしりと固まったのを感じた。  でも、仕方なかった、と思う。イタチみたいな隣人が、部屋に飾られた花瓶をいたずらで落とそうとしていたから。つい「やめなさい!」と声を上げていた。視えない人には、そんな穂乃花の良心も奇異に映るだけのようだったけれど。  母親という存在から怖がられるのは二回目だ。  一回目は、三年前に病気で死んでしまった穂乃花の母。  もう勘弁してほしいな、と思った。  そんな折だ。「岐阜に行かない?」と雪斗が誘ってくれた。ちょうど祖母の家が空くから気分転換にどうかな、と。
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