あわてんぼう様に捧げる演舞

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 鳥たちが奏でる音色に合わせ、ヤアは懸命に体を動かした。ツクヮ舞の演奏は笛で行われるが、鳥たちが鳴き声で代わりを務めてくれていた。音の高低がずれ気味なのが難点ではあったが、ヤアも振付がずれ気味のためお互い様だった。  足を伸ばし、腕を振り、鈴の音を軽やかに鳴らして、ヤアは薄紅色の舞台の上で躍動した。  ぎこちなさが消えたわけではないが、ヤアの心に不安はなく、体は練習した通りに動いてくれた。時折足さばきを間違えて転びそうにはなったが、ツクヮサマの蔓が支えてくれた。ツクヮサマの注意が山神へ向いていたせいか、引き上げる力が強すぎて逆側に転びかけたり、弱すぎてしばらく星の数を数える羽目になったりもしたが。  舞い踊るヤアの姿を、ツクヮサマは面の向こうから静かに見つめていた。泡のような光の粒が体からあふれ出し、銀色の月明りと溶け合って煌めいた。  なんて綺麗なんだろう。  ヤアは舞いながら見惚れていた。見惚れたせいで足さばきを間違えた箇所もないではなかった。  舞の中頃から先、ヤアの記憶は曖昧になっていった。踊りの巧拙、儀式の成否、期待の重圧、今晩の食事、何もかもが意識から消えてなくなり、思考を置き去りにしてひたすらに舞い踊った。ただ一つだけ、自分を見守る美しい光の在処だけは心に留め続けていた。  ヤアがふと気がつくと、すでにツクヮ舞は終わりに差しかかっていた。全身を重く満たす疲れさえ心地よく、ヤアは満ち足りた気分で杖を掲げた。残った力を振り絞って腕を振り上げると、儀式の結びを告げるように、鈴の音が凛然と夜闇に鳴り響いた。  そのまま杖はヤアの手からすっぽ抜け、月光を浴びながら空へ飛び上がった。杖は空中で滑らかに三回転半し、軽快な音を立てながらツクヮサマの頭上へ落下した。  ツクヮサマはぐらりと体を揺らし、背中側へと勢いよく倒れていった。 「わーっ」  ヤアは青ざめて叫んだ。鳥たちも一斉にチチーッと叫んだ。  舞台を飛び降りてツクヮサマの傍らへ駆け寄る。ツクヮサマは地面に横たわったまま、「疲れたっ」と元気いっぱいの大声を発した。足元から力が抜けて、ヤアはへなへなとその場にくずおれた。 「おどかさないでください……」 「仕方ないじゃない、体に力が入らないのだから。あなただってそうでしょう?」 「それは……そうですね」  ふっと息を吹き出し、ヤアはツクヮサマの隣に身を横たえた。土と草の匂いが鼻をくすぐる。視界に映る無数の星々が煌びやかに瞬いていた。  不意に頬を撫でられる感触があった。触れた手のひらはひどく冷たかったが、ヤアの胸中には暖かな光が灯った。 「お疲れ様。いい舞だったわ」 「ありがとうございはびぇ」  頬をむにむにと無遠慮に摘ままれ、感謝の言葉は霧散した。ヤアは苦笑を浮かべたが、その手を振りほどこうとはせず、遥かな光に満ちた空をいつまでも見つめ続けた。
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