あわてんぼう様に捧げる演舞

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 翌日の夜、ヤアは再び舞手として舞台に立った。  集まった村人たちの視線や、堅苦しい祭礼用の衣装が緊張を高めはしたが、儀式がすでに終わった気楽さと、傍で見守るツクヮサマの存在が心を落ち着かせ、さほどの失敗もなくツクヮ舞をやり遂げた。  祭りが終わり片付けを進める最中、ヤアは村長たちから「すまなかった」と声をかけられた。話を聞くと、ツクヮサマから「舞手の心を軽んじて身勝手な重責を負わせることのないように」と戒められたらしい。その気づかいが嬉しくて、村長たちの丁寧な謝罪は途中からさっぱり耳に入らなかった。  やがて片付けも済んだ後、ヤアはツクヮサマに声を掛けられ、山へと続く林道の前へ来ていた。付き従う鳥たちの姿はなく、ツクヮサマは「内緒話があってね」とわざとらしく声を潜めた。 「村長から聞いたのだけど。あなたの名前、昔の舞手の名前から取っているそうね」  ヤアは「はい」と頷きながら苦笑いを浮かべた。この名前のせいで舞手をやる羽目になったが、そのおかげでツクヮサマと知り合えたわけでもあり、何とも複雑な気分だった。 「本当は言ってはいけないのだけど、折角だから面白いことを教えてあげる」  悪戯めかした調子で言って、ツクヮサマはヤアの耳元に頭を寄せた。 「私の名前はね、トネというの」 「えっ」 「誰にも言ってはだめよ。でも、覚えていてね」  目を丸くしたヤアを見て、ツクヮサマはくすりと小さく吐息をこぼした。 「じゃあね、ヤア。また来るわ」 「あ、はいっ。ぜひいらしてください。いつでも歓迎します」 「いつでもいいの? さっそく明日来てしまおうかしら」 「それは少し早すぎませんか」  ヤアが呆れたように眉をひそめると、ツクヮサマはけらけらと楽しげに笑い声を響かせた。  あの人のことだから、本当に明日また来たりして。  林道の向こうに消えていく背中を見送りながら、ヤアは心の中で呟いた。知らず知らずのうちにヤアの頬は緩んでいたが、その表情を目撃したのは、一羽だけ帰りが遅れて急いで飛んでいた丸っこい鳥だけだった。
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