2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
眠れない夜は
真夜中、里奈はベッドの上で何度目か分からない寝返りを打ち、目を開ける。困ったことに、全く眠れないのだ。
里奈は明日から初めての海外旅行に行く。20歳になった記念に、両親から憧れのイタリア旅行をプレゼントされたからだ。
ガイドはいる、簡単なイタリア語は覚えた、荷物も何度もチェックした、パスポートもちゃんとある。すべて完璧だ、不安などない。
明日遠足に行く子供のようにワクワクしているというのもあるが、小さな空腹と、少しの物足りなさがあった。
「起きてるといいんだけど……」
里奈はため息をつくと、忍び足で母の部屋へ行く。母の部屋は里奈の部屋と同じく2階にあって、階段のすぐ近くにある。そっとドアを開けてみると、常夜灯は母の穏やかな寝顔を照らしていた。
(デスヨネー)
内心ため息をつきながら、1階に降りると、喉が渇いているわけでもないのに水を飲む。
「どうしよ……」
ぽつりとつぶやくと、階段を降りる小さな足音が聞こえてきた。母だ。父は夜中でも無神経な足音を響かせる。そもそも、彼は1階に寝ているため、足音の質がまったく違う。
ドアが僅かに開き、イタズラっぽい笑みを浮かべた母が、顔だけ出した。
「お母さんなんだか起きちゃって、眠れなくなっちゃった。ワルイコト、する?」
それは里奈が待ち望んでいた言葉だった。里奈は起こしてしまったかと思いながらも、素直に頷いた。
母は子供のようにいひひと笑うと、引っ込んでドアを閉める。里奈もコップを洗うと、自室に戻ってコートと財布を持って玄関へ行く。少し遅れてコートを羽織った母が来ると、ふたりは外に出た。
ふたりは当たり前のように母の車に乗ると、真夜中のドライブを始める。
最初のコメントを投稿しよう!