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「見てー、田舎のイルミネーション(笑)」
「わー、きれーい(笑) 都会にも負けてなーい」
都会のイルミネーションとは比べ物にすらならないと知りながら、戯言を言って車内を笑い声でいっぱいにする。
家に着くと、ふたりはまず台所に行った。父に気づかれぬよう、こっそりと。母はグラスとふたつのスプーンを持って先に自室に戻る。
里奈はふたつのマグカップで粉末スープを作ると、トレーに枝豆チップスと一緒に乗せて母の部屋へ行く。
母の部屋はすでに明るくなっており、母は里奈を見つけると、急かすように手招きをする。里奈は苦笑しながらドアを閉めると、母のベッドの上にトレーを置いた。
「今夜は豪華でっせ」
「おぉ! 晩餐だ!」
いつものように即興茶番をしながら、母はグラタンのビニールを破ってトレーの中央に置き、里奈は缶チューハイの半分をグラスに注いだ。最後にテレビをつけてバラエティー番組をやっているチャンネルにすれば完璧だ。
「かんぱーい」
缶とグラスをぶつけて乾杯すると、テレビを見ながらひと口飲む。
「エビアレルギーの人いっぱいいるのに、なんでエビグラタンなんて売ってるんだろうね」
「アレルギーの人たちに合わせてたら、何も売れなくなるでしょ」
お決まりの会話をしながら、里奈はグラタンの蓋にエビを全部乗せていく。エビアレルギーというわけではないが、エビが嫌いだった。味や食感が嫌いというわけではなく、食わず嫌い。
最後に真ん中に線を引くと、ふたりはふーふー冷ましながらグラタンを食べていく。
「お母さんって本当に悪い親ねぇ」
しみじみ言う母に、里奈は吹き出す。
「今更じゃん。私のお酒デビュー、何歳だと思ってんの」
「あれ、小学2年生だっけ?」
「そうそう。そんで、3年生の頃に”酒”って漢字習って、通知表に「酒って書くときに目がきらきらしてました」って書かれたの」
「もー、のんべなんだから」
「あんたが言うなっ」
そんな話をしているうちにグラタンもポタージュもなくなり、枝豆チップスに手が伸びる。
里奈は先程の会話を懐かしみながら、枝豆チップスの封を切る。
里奈が小学2年生の頃、眠れずにいると母は今日のように里奈をドライブに連れていき、こうしてグラタンとチューハイをごちそうしてくれた。まだ10歳にすらなっていない子供に酒を飲ませるのは今考えるとどうかと思うが、いい思い出だ。
バラエティー番組を見ながらチューハイをチビチビ飲み、枝豆チップスをつまむ、全てがなくなった頃、ふたりはレディらしからぬ大あくびをした。
「そろそろお開きにしますか」
「うん、おやすみ」
「おやすみ。イタリアのお土産、楽しみにしてる」
「砂浜でいい?」
「ひっどーい」
冗談を言いながら別れ、自室に戻る。
里奈はもう一度大きなあくびをすると、そのまま寝息を立てた。
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