生物兵器による地球侵攻前夜

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 地球の遥か上空、空を越えた宇宙空間に、 地球のどの国のレーダーにも感知されず、 一隻の宇宙船が停泊していた。  地球よりもずっと文明の進んだ星から来た、 宇宙人の乗った宇宙船だ。  宇宙人たちは宇宙船内で話し合っていた。 正確には彼らはテレパシーのように直接思考のやり取りを出来たのだが、 人間同士の会話と使われ方は同じものであった。  がらんとした広い部屋に、十数人の宇宙人がいた。 部屋の中央に一人の宇宙人、その周りを残りの宇宙人が囲むような形だ。  「諸君、いよいよ明日、地球への侵攻を開始する。」  中央にいる宇宙人がそう言った。  「今一度作戦を確認する。現在、発射準備されている生物兵器による 三つの小隊を地球に向けて発射、地球上に到着して侵攻を開始する。」  「隊長、生物兵器とはどのようなものなのでしょうか。」 周りにいる宇宙人の一人が質問する。  「うむ、作戦の最終段階は機密事項だったからな。 先ほど情報が解禁されたので、伝えるとしよう。」  「この兵器は宇宙船より地球に発射され、地球上に到着する。 もちろん地球人には発射から着地までの衝撃などを感知することは不可能だ。せいぜい小さな隕石が遥か上空で焼失した程度の認識だろう。」  「そしてこの兵器は地球上に降り立つと地球上の生物を模した 兵器へと変身する。」  卵の形をした光るものを持ち、隊長と呼ばれた宇宙人は言った。 どうやらこれが生物兵器のようだ。  「しかし、そんな小さな兵器ひとつで地球を侵略することが 出来るんでしょうか? 調査によると地球人は我々よりもはるかに技術は劣るとはいえ、 様々な兵器や軍備も持っています。 宇宙空間での戦闘ならまだしも、 彼らの住む土地での戦闘となると いくら文明の遅れた星とはいえこちらも 被害がゼロというわけにはいかないのではないでしょうか。」  部下の心配は最もだった。争いとは常に双方に傷をもたらす。 相手がチワワ一匹だったとしても、ライオンでも不意打ちでないと無傷は難しいだろう。  「それは心配ない。過去に他の星への侵攻で使われ成功を収めている。 その星では我々の兵器が必ずしも有効とは限らない。 気質、光、重力、温度、その星特有のものも含めれば 我々には強力な兵器でも、ある星の生物には全く無害なこともある。 もちろんその逆もある。それを全て調べること、 ましてその星の知的生命体に悟られずに調査するのは あまりにもコストがかかりすぎる。」  コストの掛けすぎは本部がうるさいからなと隊長が言うと、 笑いが起こった。 「それを解決するのがこの生物兵器だ。 その星の生物を自ら学習し、その星の生物を模した兵器へと 瞬時に変化し、攻撃する。これなら間違いなく相手に有効な攻撃が できるというわけだ。」  「なるほど!素晴らしい兵器ですね!」  「しかし隊長、その星の生物ということは、その星の知的生命体でも 倒せるということではないですか? 攻撃兵器としてはあまり効率的でないかと思いますが。」  「一瞬で全てを破壊するならもっといい方法がある。 それこそこの船に積んでる砲でも あの星の小さめの大陸なら表層だけなら破壊も難しくない。 それくらいの調査は流石に出来る。 しかしそれでは侵攻の後に資源を回収したり 移り住んだりすることが出来ない。 それでは全く無意味な破壊でしかない。」  「それは理解しています。しかし、生物を少し増やすことが 有効な攻撃となるのでしょうか?」  「いや、ある生物における天敵の数を増やすというのは有効だ。 生物のバランスは少しでも狂えば大繁殖も招けば絶滅も招く。 そして今回生物兵器として使うのはあの地球の知的生命体、 作戦では地球人と呼ぶが、 地球人を殺す生物を大量に投下する。」  「そうするとかなりの打撃になりそうですね。」  「ああ。それも適度に地球人が多く生息し、表層の面積も多くない場所に 集中して投下する。その後は地球上の生物兵器から別の地球上へ このような卵状の兵器のクローンが発射され、その先で変化する。 というように、どんどんと増えて攻撃していく。 生物の繁殖と侵略を瞬時に進めるわけだ。」  「そうか。長い時間をかけた生物の盛衰を 意図的に短期間に行う兵器と言う事ですね。」  「そうだ。本部の計算ではひと月もすれば地球人の七割を減らせる計算だ。 そうなれば後は我々が自ら侵攻しても危険はない。」  彼らは地球人から見れば軍隊と呼ばれる集団だった。 しかし彼らの文明は地球よりもずっと進んでおり、軍隊と言えども 自ら危険にさらされる作戦は取らず、機械や生物兵器での侵攻が主であった。  「なるほど、完璧な作戦ですね!」  「そうだ。しかし油断は禁物だ。明日の作戦開始まで、 各々気を抜かないように、以上!」 隊長はそういい、その日は解散となった。  そして次の日、兵器は地球に向けて発射された。 目標は細長い島。地球で言う日本という国である。  生物兵器が発射されて数十分後。  「隊長、生物兵器第一部隊からの通信が途絶えました。」  「なんだと!」 予想外の出来事に驚く宇宙人たち。  「隊長、こちらもダメです!」 そのあとも生物兵器からの連絡は次々と途絶え、 送り出した兵器からの通信は全て途絶えてしまった。  「隊長……」  「どうやら地球人を甘く見ていたようだ。これが地球人の科学力なのか、 それとも地球という星の特殊性を我々がまだ掴めていないのか。 とにかくデータがなさすぎる。今回の作戦は失敗だ。ただちに帰還する。」 隊長がそういうと、宇宙船はすぐに自分たちの星に向けて飛び立っていった。 星に帰る船内で、宇宙人たちはショックを隠し切れなかった。 「しかし、あれほど優秀な兵器が一瞬でやられるとは…。」 「隊長、あの兵器はどのような姿になっていたのでしょうか?」 「わからん。しかし本部からの命令で、 映像も音声もこちらに送ることは禁止されている。 以前侵攻した星で、音声や映像でこちらの精神を操る生物が いたことが理由だ。 そして攻撃の確実性を高めるため、 今回の作戦では地球人と呼ばれる生命体を 最も多く殺した生物の姿になるようになっていたはずだ。」 「それがあれほどの数現れたのに、一日も経たずに壊滅させるとは…。 地球人の天敵への対策はかなり厳重ということでしょうか?」 「そうなると常に臨戦態勢ということになる。 あんな小さな場所でそうなると、 地球全土を相手にするのは中々厄介だぞ。」 宇宙人たちは自分たちの星に帰還後、すぐに本部にこのことを報告した。 報告を受け、予想以上の軍事力と戦力があるとなり、地球への侵攻は当分の間見送られることになった。  生物兵器が送られた地球の島国、日本。 兵器が全滅したすぐそばに建つひとつの家から、 地球人の親子が出てきた。  「お父さん、早く早く。」  「ちょっと待て待て。」 そういうと父親は子供にスプレーを吹きかけた。  「お父さん、それ臭いからいいよ。」  「何言ってんだ。蚊は人間を一番殺してる生き物って言われてるんだぞ。 色んな病気を運んでくる。刺されないに越したことない。」  「え、そうなんだ。クマとかじゃないんだ。」  「蚊は怖いんだぞ。ほら、これも持っときなさい。」 父親はそう言って子供に携帯用の殺虫剤を手渡した。  「よし、じゃあ行こうか。」 親子は二人並んで公園へ向かい歩き出した。
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