娘の嫁入り前夜

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俺はボクシングを観てはいる。観てはいるけどいつもと今夜とは違うんだ。 明日は日奈子を嫁に出す日だからだ。 明日、日奈子はこの家を出て行くわけだ。当たり前だけど、幸せなことなんだけど、何か男親としては、正直、明日になってほしくないような気持ちもしていた。 そこで言うと、女親はさっぱりしたもんだ。そう言う感情はさほどないようで「市内なんだから」だって。 それと、もうひとつ気になっていることがある。 ボクシングの世界タイトルマッチをやってはいるが、明日、式があるわけだから、やることもあるだろうに、日奈子がなかなかこの部屋から出て行こうとしないことだ。 ひょっとして、あれを俺にするつもりなんだろうか? あれは嫌だ。やらなくていいんだよ。 三つ指ついて「お父さん、お母さん長い間、お世話になりました」ってやつ。あれはされたくない。 でも日奈子は律儀なところがあるから、挨拶する隙を見計らっているのではないかと思っていた。
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