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「……じゃあさ、もうやめれば?」
俺は努めてさりげなく言った。
「え? やめる?」
由香理はきょとんと眼を瞬いたが、間もなくして納得の色を浮かべる。
「事実婚ってこと? それはちょっとないかな。だって──」
「いや、結婚そのものを」
遮って言うと、由香理は一拍置いて大きく目を見開いた。
「無理よそんな……婚約中ならまだしも、浩輔だって知ってる通り明日は──」
「入籍は? 届は出したのか?」
再び遮って尋ねる。
「それは……明日、式が終わってから出しに行こうって……」
由香理はうつむきがちに答えた。
「だったらまだ間に合う。入籍してしまえば、苗字を取り戻す方法はほぼ離婚しかなくなるだろ。でも相手が拒否したら、『旧姓に戻したい』って理由じゃ裁判所には認められないかもしれない」
厳密には、離婚以外にも方法はある。
由香理の親と養子縁組をすれば、二人とも佐倉姓になるはずだ。
だが話を聞く限りその可能性は限りなく低そうだった。
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