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「……実際、正式に結婚しようとしたらどっちかは変えなきゃなんねえわけだしな」
いつかはそれが変わる日が来るのだろうか。
婚姻に伴い、片方の改姓が強制されなくなる日が。
あるいは、今でいう旧姓と新姓どちらもが法的に正式な「氏名」として認められるようになる日が。
そんなことを考えながらつぶやくと、由香理がふっと笑う気配があった。
「……そう、ほんとにそう。『どっちか』なのよね。浩輔はたぶん無意識なんだろうけど、そういうフラットなとこ、好きだよ」
「……」
思わぬ言葉に一瞬、虚をつかれてしまった。
長い付き合いの幼馴染とはいえ、仮にも男の部屋に上がり込んで、そいつに向かって曲がりなりにも「好き」だなんて──。
本人にとっては大きなお世話だろうが、危機管理がなっていないと説教したくなる。
が、俺は俺で人生最大のこの好機を逃すわけにはいかないのだった。
「じゃあさ……俺を『佐倉浩輔』にしてみるか?」
なんと奇妙な告白──いや、プロポーズなのかと自分でも思う。
それこそ「お前を『垣内由香理』にしてやるよ」などと宣う「俺様キャラ」なら存在するかもしれないが、逆は稀だろう。
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