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「何……言ってんの? だって、そんな……っ」
由香理は信じられない、とばかりに目を見開いた。
「俺とじゃ結婚は無理って?」
悲しげにも責め口調にも聞こえないよう少しおどけて言う。
「いや、そんなことはないけど……そうじゃなくて……」
否定しながらも言いよどむ由香理は、まるで何かと戦っているようだった。
「俺とだったら、『佐倉由香理』のままでいられるのに?」
さりげなく畳みかける。
すると由香理は下唇を軽く噛んで黙り込んでしまった。
「……浩輔は、友達とかから『かっきー』って呼ばれてるでしょ? 苗字が『垣内』だから。そういうのもあるのに……平気、なの……?」
由香理が言っているのは、主に学生時代に親しくなった友人たちのことだ。
確かに、そのうちの何割かは俺を「かっきー」と呼ぶ。
俺が改姓すると知ったら、奴らはきっと「え! じゃあもうかっきーじゃねえじゃん!」と笑うだろう。
でもそう言いながらも、結局はそのまま「かっきー」と呼び続けるに違いない。
本名が何であろうと、奴らにとって「俺」は今も昔もこれからも「かっきー」なのだ。
「垣内」はあくまでその由来に過ぎない。
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