1.前夜

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 結局俺にとっては名前なんて、苗字なんてその程度のものなのだ。  それを由香理相手に口にしないだけの分別があるというだけで。 「平気だって。それよりお前が幸せでいることの方が大事なんだよ。俺には」  それは正真正銘心からの言葉だった。  由香理ははっと息をのんだが、すぐに「でも……」とうつむく。 「……今更無理よ」  由香理が「今更」と言いたくなる気持ちはわかる。  何しろ挙式も入籍も、すべてが明日に迫っているのだ。  式前夜になってからの婚約破棄なんて、相手はもちろんその親や、ひょっとしたら自分の親だって、なんとかして止めようとするだろう。  身内以外の招待客ですらそうかもしれない。  だがそれがいったい何だというのだろう?  これが本当に望み通りの結婚なら、由香理はそもそも悩むことも迷うこともなかったはずだ。 「俺が何とかしてやる」  口で言うほど簡単なことではないと思う。  それでも、たとえ本人は無意識だったとしても、最後の最後に(ここ)を選んで助けを求めてきたこの幼馴染を、俺は何としてでも救いたい。
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