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結局俺にとっては名前なんて、苗字なんてその程度のものなのだ。
それを由香理相手に口にしないだけの分別があるというだけで。
「平気だって。それよりお前が幸せでいることの方が大事なんだよ。俺には」
それは正真正銘心からの言葉だった。
由香理ははっと息をのんだが、すぐに「でも……」とうつむく。
「……今更無理よ」
由香理が「今更」と言いたくなる気持ちはわかる。
何しろ挙式も入籍も、すべてが明日に迫っているのだ。
式前夜になってからの婚約破棄なんて、相手はもちろんその親や、ひょっとしたら自分の親だって、なんとかして止めようとするだろう。
身内以外の招待客ですらそうかもしれない。
だがそれがいったい何だというのだろう?
これが本当に望み通りの結婚なら、由香理はそもそも悩むことも迷うこともなかったはずだ。
「俺が何とかしてやる」
口で言うほど簡単なことではないと思う。
それでも、たとえ本人は無意識だったとしても、最後の最後に俺を選んで助けを求めてきたこの幼馴染を、俺は何としてでも救いたい。
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