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まるで全てがスローモーションだった。
熱にうかされたように一歩踏み出した由香理の腕を新郎が掴む。
が、その手に残ったのはグローブだけだった。由香理の華奢な腕は既に空を切っている。
そっと両腕を広げた中に、由香理が飛び込んできた。
それを受け止めた勢いのまま抱きかかえ、俺は無言で踵を返す。
背後ではざわめきが一層大きくなった。
が、俺は振り返らない。俺には振り返る義理も資格もない。
どんな理由があれ、由香理が彼らを裏切ったことは確かなのだ。
それに手を貸した──いや、むしろ企てたと言うべきか──俺も当然同罪だ。
「私、最低な花嫁だよね」
由香理がぼそりと言った。
きっとその顔には自嘲的な笑みを浮かべているに違いない。
だからあえて見当違いの返事をする。
「ま、俺よりはましだろうけどな」
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