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「あ……やっほー」
下手くそな作り笑いを浮かべて軽く右手を上げたのは、まさについさっきまで想いを馳せていた幼馴染──佐倉由香理本人だった。
「お前……なんでこんなとこに。だって明日──」
結婚式だろ、という言葉を飲み込む。
由香理はそれには答えずに、俺の脇をするりとすり抜けて中に入ってきた。
いや、いつまでも玄関に突っ立たせておくつもりはなかったのだから問題はないのだが。それよりも。
「おい、由香理──」
「ねえ、今日が最後なのよ」
狭い三和土で靴を脱ぎながら、由香理が言った。
「……は?」
「私が私でいられるのはね、今日が最後なの。明日から私は……私じゃなくなる」
そう言って由香理は廊下をスタスタと進み、部屋へと入ってしまう。
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