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しばらく、二人して無言で缶コーヒーを傾ける。
一服したところで、俺はおもむろに口を開いた。
「……で、一体どうしたんだよ。式の前夜に」
すると由香理は、缶コーヒーをローテーブルにコン、と音を立てて置いた。
「強いて言うなら、『最後の息抜き』ってやつかな。独身最後の夜は、お互い好きなように過ごそうって」
妙に明るい声だった。
俺は内心、おいおい、と思う。
「独身最後の息抜き」なんて、これから家族になろうとしている相手に提案するような内容だろうか。
昔から「結婚は人生の墓場」だの何だのと言うようだが、それにしたって結婚式の直前なんて、一番幸せな時期じゃないのか。
って、独身彼女ナシの俺が偉そうに言えることではないが。
「だからって、幼馴染とはいえ男の家に行く奴があるかよ」
俺が呆れて言うと、由香理は「だって」と唇を尖らせた。
「家族以外で私を一番知ってるのは、間違いなく浩輔だから」
理由にも、説明にもなっていない。
だがその声にどこか切実な響きを感じた俺は、目の前の幼馴染をじっと見た。
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