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序幕
「ぎゃあっ! 熱いっ、熱いわ!」
顔を掻き毟るように両手で押さえる少女が。絶叫にも似た声を上げ、その薄黒い液体で前髪から胸元のドレスまでを濡らし丸まっていた。
対して眼前に立つ少女は、手入れの行き届いた髪をふんわりと靡かせ、皮肉にも涼しい表情を浮かべている。
華奢な指にはティーカップがぶら下がり、ぽたぽたと僅かに残った滴が絨毯へと歪な形の染みを作っていた。
「ご請求は、どうぞ我が家に」
大柄だが繊細な刺繍が施された布張りの椅子、丁寧に使用されてきたであろう綿密な手織り絨毯。
悶えながら伏せる少女への謝罪よりも、そのクリーニング、もしくは買い替えるのならば請求を寄越すよう淡々と言い放つのだった。
「結構、寧ろお礼の品を届けましょう」
貴女がやらねば私がやっていたこと、そんな風に取れる言葉と口調で何事もなかったかのよう茶会主が優雅にカップを口に運ぶ。
信じられないと睨みつけた一人が、蹲る少女の背を摩り、庇うよう声を荒らげる。
「貴女方よくも……私たちはあの方の代わりとして招待に応じて来たのよ!」
「そうよ、特に貴女、私にこんなことをして……あの方に言い付けてやるわ! あの公爵家のご令嬢の顔を汚したと同じなんだからっ!」
勢いよく真っ赤な顔を上げ、見開いた目から涙を流しながらに、そんな怒号が場に響く。
それを見下ろしながら鼻で笑う少女が、吐き捨てるよう言葉を投げた。
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