十五、平成二十七年七月

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 病室へ入る前に私を呼び止めた看護師は、母の体調がいいことと薬のことを幾つか伝えてから離れていった。  ドアを開けるとすぐ、私に気づいた母が笑顔になる。何よりも嬉しい一瞬だ。 「具合はどう?」 「いいわよ、それよりこれ」  具合を尋ねた私に明るい顔で答え、点滴のチューブを払いながら傍らの手紙を差し出す。白い封筒の文字と切手ですぐに分かる。ウチコだ。 「ウチコからね」  封筒を返せば予想通り『Yuiko Ida』の名があった。今は仕事の都合でこの名前を使っているらしい。でも私達とはずっとウチコのままだ。 「お見舞いじゃないかな」 「あの子は、本当に優しい子ね。早く読んでちょうだい」  母の言葉に頷き、封筒の端を慎重に切り取る。中には丁寧に畳まれた白い便箋。ベッドへ腰掛け、待ちきれない様子の母と視線を合わせる。  逸る胸を抑え、ゆっくりと開いた。                                                                           (終)
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