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病室へ入る前に私を呼び止めた看護師は、母の体調がいいことと薬のことを幾つか伝えてから離れていった。
ドアを開けるとすぐ、私に気づいた母が笑顔になる。何よりも嬉しい一瞬だ。
「具合はどう?」
「いいわよ、それよりこれ」
具合を尋ねた私に明るい顔で答え、点滴のチューブを払いながら傍らの手紙を差し出す。白い封筒の文字と切手ですぐに分かる。ウチコだ。
「ウチコからね」
封筒を返せば予想通り『Yuiko Ida』の名があった。今は仕事の都合でこの名前を使っているらしい。でも私達とはずっとウチコのままだ。
「お見舞いじゃないかな」
「あの子は、本当に優しい子ね。早く読んでちょうだい」
母の言葉に頷き、封筒の端を慎重に切り取る。中には丁寧に畳まれた白い便箋。ベッドへ腰掛け、待ちきれない様子の母と視線を合わせる。
逸る胸を抑え、ゆっくりと開いた。
(終)
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