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面倒くさい奴
クリスマスに指輪を交換し、年末に二人で暮らすマンションへ引っ越し、準基と留美は新生活を楽しんでいた。
そして新年を迎え、準基は今年一年、幸せが沢山あります様にと初日の出に祈り、留美と楽しく休みを過ごしたが、早くも冬季休暇が終わりに近づいていた。
「準基、散歩行こ?明日から会社だし、運動しよ!運動!」
留美はジャージに着替えて出掛ける準備をし、準基もニコッと笑いジャージに着替え、留美と外へ出る。
『さむぅ〜。』
思わず背中が丸くなるが、実は一日も早く目標を達成して留美にプロポーズをしたいと思っている為寒くても堪える。一日でも早く留美のウェディングドレス姿を見たいといつも思っていた。
近所を改めて探検しながら、新しく店を見つけたりして二人は子供の頃の様にワクワクして歩く。辺りもかなり様変わりし、年月の流れを感じる。
「昔、駅の近くに駄菓子屋さんあったけど…もう無いね。」
「ああ、再開発も多少あったし。駅が綺麗になってるだろ?」
「そっか。ねぇ、今日の晩御飯何にする?」
留美は歩いている途中で突然聞き出し、準基はダイエットが上手く行くのか心配になってくると笑う。
「留美の作るご飯美味しいからなぁ。俺、痩せれるか不安になる。」
「大丈夫よ。その分動けば!大地君と大河君達とフットサルとかやればいいじゃない!ね!私また準基がサッカーやっている姿見たいと思ってるよ。」
留美は笑顔で準基を見つめる。
「うーん。ヘディングとか…リフティング…出来ないだろうな。」
準基は考えるだけで逃げるボールを追いかけることになりそうだと遠い目をする。
「でも、少しずつ練習したらカンは取り戻すと思う。」
「留美が見ていてくれるならやろうかな?」
「うん。どれだけでも見てるよ。だって準基のサッカーしているカッコいい姿を見るのが楽しみだったもん!」
留美はそう言って頬を薔薇色にしてニコニコして見てくるが、準基は暫くはカッコ悪い姿しか見せられそうにないな…と苦笑いした。
「先輩!あけまして…あ、正月に言ったや。」
大地は準基を見つけるなり走って来て声をかけたが、笑いながら正月に遊び行ったやと大河を見ながら言った。
「なあ、今年から週末にフットサルやらないか?」
準基は二人に提案する。
「いいっすね!あ!他の営業部の奴らにも声かけてみます!」
「俺も、総務部の若手に声かけますね!サッカーやっていた人にも!」
大地と大河はそれぞれの課へ張り切って走って行った。
準基も管理部に行き、和樹に声をかける事にした。
「陶山、おはよ。今年もよろしくお願いします。」
準基は後輩だが丁寧に挨拶し、和樹も立ち上がり、準基に挨拶した。
「鈴木さん、休み前よりもまた少し痩せましたか?スーツがかなりブカブカに?」
和樹に言われ、腹回りと肩回りが楽になっている事に気付く。
「ああ…休み中も彼女に運動しなさいって言われてて、一緒に散歩したり、ジョギングしたり、祝日開けた途端に市の施設へ行って筋トレとかさせられていたんだ。」
そして準基は本題を和樹に話す。
「いいですね!やりましょう!!参加します!」
「じゃあ、早速、来週末くらいからやるかな。また決まったら言うから。」
準基は出だしは好調と新年早々気分が良かった。
会社の若手や、準基の様にサッカーをしていたアラフォー又はアラフィフ従業員が集まり、チームが2つ作れる状態になった。
「すごいっすね!結構サッカーやっていた人が多かったんですね。」
大地はメンバーのグループLINEを見ながら驚く。
「しかもダイエット中の準基先輩が声をかけていたから中年の人たちが余計に食いついてくれたんだよね。」
「まぁな。皆健康診断で数値で引っかかったりしているし、子供が大きくなったパパさん従業員さんが休みの日に居場所が無いって言って、乗ってくれたし、それに俺らの世代前後がJリーグ全盛期だったからやっていた人とか多いからだよ。それで久しぶりにやってみるかって。」
準基は楽しそうに話し、皆でやるサッカーやフットサルが楽しみだと笑顔で居た。
「先輩、サッカー好きなんですね。」
「うん。選手になりたかったし。言ってなかったっけ?」
「多分聞いたことあると思います。確か・・・準基先輩のお母さんが留美さんに・・・落ちた理由とか・・・色々話していたような。」
準基はそれを聞き顔が引き攣り真っ青になった。
落ちた理由に留美と留美の当時の彼氏のキスシーンを見て心が折れて翌日のテストにかなりの影響が出てしまった事が原因だった。
「・・・え?母さん落ちた理由…留美に言ったの?」
「はい・・・。先輩が酔いつぶれた時に。お母さんが留美さんに準基先輩の事は好きなのか確認していて。」
「あぁ・・・それは聞いた。」
準基は真っ赤になって俯く。
「先輩かわいいっすよね!!理由が・・・可愛すぎるっす!!」
大地はニヤリと悪い顔をして準基をからかう。
「おまえ・・・。」
「なんすかぁ?」
大地は準基にプロレス技をかけられ、大河がカウントを取り出し、三人が騒いでいる所を休憩中の周りの従業員たちは爆笑して見ていた。
「るーみ!!お昼食べた?」
由真はパソコンと睨み合っている留美にお昼へ行こうと声をかけると、留美はちらっと由真を見た。
「そうね、お腹も空いて来たし。どこ行く?」
留美は貴重品を持ち、由真に何処へランチへ行くか尋ねた。
「食堂じゃないの?」
「イヤよ。」
「あ~沢木か。」
「そうよ。あんな辱めを受けて当分許してやんない。」
留美はその日以来諒太とは話しておらず、周りも仕事に支障が出るのでほとほと困っていた。
留美は由真を連れて外へランチへ出かけ、会社近くの喫茶店で食べることにして、由真は留美に諒太が反省していたことを話し始めた。
「そんな事言われても・・・大体今日も出勤時にこっち見て笑う人も居たし。沢木の事なんか絶対に許さないって思っちゃった。恥ずかしいって言葉知らないのかしら?」
「留美、仕事が・・・やりづらいから一応和解してくれない?じゃないと後輩たちが・・・。」
由真は皆の事も考えて諒太と和解して欲しいと懇願する。
留美は少し考えたが、「暫くは無理ね。出来たら顔も見たくない。そもそも準基に失礼な事を言っておいて未だ彼に謝ってない。」そう言って食後のコーヒーを飲み干した。
由真は会社へ戻ると諒太の所へ向かい、昼に話した事を伝えることにした。
「沢木!留美に聞いたよ。」
「未だ怒ってた?」
諒太は恐る恐る由真に確認する。
「うん。当分無理って。」
諒太は予想はしていたがその通りの展開に大きな溜息を吐き目を瞑る。
貿易課との仕事にも若干の支障が出るので部下の為にも仲直りをしなければならないのだが、当然許してもらえるはずがない。
「はぁ・・・俺という者が何故あんな失態を・・・。」
壁にもたれかかり、涙が出そうなのを堪える。
「留美はもう準基さんの彼女でもうほぼ婚約者で確定なんだから本当に諦めなさいよ。格好悪いにもほどがあるわよ。」
由真は呆れながらべーっと舌を出した。
「わかってるよ!!」
「あ!あと、留美が準基さんに沢木が謝っていないから余計に許せないと言ってた。」
「・・・やっぱりそこか・・・。」
「まぁ、留美からしたらそうよね。準基さんは謝ってもらいたいかどうかは分からないけど。」
由真はとりあえずそういうことだからと言って諒太を置き去りにして課へ戻って行った。
夕方
「倉本!」
諒太は意を決して留美が居る貿易課へやって来た。
留美は諒太の声を聞くなりまた眉間に皺を寄せて、顔を見るなり睨みつけ冷たく「何の用だ。」と言い放ち、諒太に緊張を走らせる。
「えと…準基さんに謝りたくて…。」
留美は諒太の顔を見て、恐らく由真が言ったであろうと考え、好きにしてと言った。
「は?!お前一緒に行ってくれないの?!」
「…なんっで私があんたと行かなくちゃならないのよ!?図々しい。」
留美はあり得ないわ!と言いながら外へ向かうが諒太は必死に着いて行き、何とか準基に会わせてくれと頼んできた。
留美は心の底から嫌だったが、諦めて準基に連絡する事にした。
「先輩!もう帰れますか?」
大地は大河と管理部にやって来て、準基の隣の空いていた席に座った。
「ああ、もうあと少しで…あれ?留美だ。」
準基はスマホに手を伸ばし直ぐに出る。
「留美、終わった?俺ももう少しで終わるから。」
そう言うと留美の怒りに満ちた声が聞こえて来た。
「準基!ほんっとに悪いんだけど…電話の後ろで騒いでるバカに会ってもらってもいいかな?!何で私がセッティングしなきゃいけないのかもわかんないけど!!」
準基は状況を飲み込み、駅前の大衆居酒屋で大地と大河も連れて行って待ってると伝え、二人を連れて地元駅へ向かった。
大衆居酒屋に着き、いつも通りの注文をする。
準基と大地は生中、大河はハイボールだ。
「準基さん、そのこないだ言っていた失礼な奴が来るんですよね!?」
大地は一杯目をゴクゴクと喉を鳴らして飲み、プハーとした。
「ああ、そう。失礼なヤツが来るよ。まぁ謝られても許すも許さないも無いけどな。とりあえず留美に付きまとうな…だな。」
「準基さん、めちゃくちゃいい男に見えますよ?」
大河は笑いながら褒めると、準基は微妙な顔をして、「笑ってるじゃないか!」と言いながら笑い、三人で留美の到着を待った。
「準基さん、怒ってるかな?」
諒太は道すがらずっとブツブツ言いながら歩いていた。
「…沢木うるさい、恥ずかしい。やめて。」
留美は諒太の独り言を会社を出てからずっと聞かされほとほとうんざりしていた。
「はいはい、すみませんね。大体倉本があんなぽっちゃりさんと・・・」
「何か言った?二度とあなたとは話さないわよ。」
睨みながら言うと、諒太は「すみません」と大人しくなった。
居酒屋に着き、留美はいつもの席に向かってどんどん奥へ歩いて行き、諒太はその後ろをおどおどしながらついて行く。
「準基~!お待たせ~!!」
留美は準基を見つけるなり駆け寄って行き、諒太はその様子を目を丸くして見ていた。
「こんばんは、沢木さん。先日はありがとうございました。」
準基は先日の契約時の話をし、諒太に笑顔を向けた。
「こんばんは・・・先日は大変失礼を申しまして・・・すみませんでした。」
「いえ。そりゃあ見た目こんなんだと・・・留美の同僚なら心配になりますよね。」
準基は笑顔で対応するが、諒太はその後ろから来る留美の視線が怖くて痛くて仕方が無かった。
「すみません・・・じゃあ僕はこれで・・・」
「えーっ!!もう帰るんですか?!」
諒太が帰ろうとした時、大地が大きな声で叫び呼び止めた。
準基も大河も目を丸くして大地を見る。
「え?」
「せっかく来たんだし、せっかく顔見知りになったんですから一緒に飲みましょうよ!」
大地は企んでいるのか、企んでないのかよくわからない顔をして諒太を誘う。
大河も「まぁせっかくだから。」と言い諒太を座らせ、生中を頼んだ。
留美は大地と大河を恨みがましく見つめて、準基にまぁ、まぁと宥められ頬を膨らませながらチューハイを飲み始めた。
話題は準基のサッカーの話になり、諒太はサッカー選手に知り合いは居るのかと聞いた。
「うん、居るよ。高校の同級生だったし。殆ど皆プロになったよ。落ちたのは俺だけで・・・惨めだったけど、結局ちょっとしたことで動揺してしまうなら選手になっても続かないだろうし、ここ一番でやらかしてしまいそうだからこの普通な人生で良かったんだと思う。」
準基は永い間考えた結論を話す。
「最近はダイエット始めたって倉本が言っていましたけど・・・」
「それはある事がきっかけだったけど、それがあって痩せて元に戻そうと思えたのと留美が側に居てくれるから、健康で居なくちゃなと思ったから。本当に些細な理由。」
準基はそう言いながら笑顔で留美を見つめ、留美も笑顔で準基に頷き、その姿を見ながら諒太の心の中は更に惨めになって行く。
「沢木、何でそんなに根ほり葉ほり聞くのよ。」
留美は訝し気に気持ち悪いヤツだとボヤきながら諒太の顔を見る。
「倉本が準基さんを選んだ理由を知りたくて。」
真剣な眼差しで諒太が言うので準基達四人はポカンとした。
「選んだ理由って・・・理由なんて無いわよ。理由付ける事じゃないのよ。私は準基が良かった、準基に側に居て欲しかった、私が準基の側に居たかった。それはこれからもずっとね。準基じゃないとダメなの。」
留美の話に準基は心が温かくなる。
「沢木さん、留美さんは準基さんが大好きだから頑張って諦めましょう!!」
大地が諒太の背中をバシバシと叩き酒をどんどん勧める。大河も調子よく飲み進め、準基も留美も(これ・・・泊まるつもりか・・・?)と思い始めた。
「大地!!歩け!!大河も!起きろ!!お前ら明日も仕事あるんだぞ!!」
数時間後の夜10時。大地と大河は案の定飲み潰れ、準基と留美のマンションにお泊りになった。
そして沢木も大地と大河に酔い潰されぐでんぐでんになって道に寝転がっていた。
「沢木!タクシー来た!!ほら!起きて乗って!!運転手さん、渋谷区松濤町まで。沢木!あんたあと番地自分で言いなさいよ!!」
留美はタクシー運転手に諒太を頼んだ。
「渋谷区松濤町って・・・金持ちじゃんか!?沢木さんって。」
準基は呆気に取られる。
「あぁ、うん。なんか親が有名家電メーカーの社長らしいよ?沢木は次男だから家業は継ぐこと無いから今の会社に入ったんだって。」
「そっか。留美、良かったのか?俺で?」
「・・・バカ!!さっきの話聞いてた?!理由なんてないの。準基がどんなでも私には準基が一番なの。それ以外無いの。」
「ありがとう。留美。さぁこのあんぽんたん二人を家に連れて帰るか。」
「そうね。帰って最初にお布団敷いてあげないと。」
準基と留美は千鳥足の大地と大河を連れてマンション迄の道のりを歩いた。
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