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試練?
AM6:00
目覚ましが鳴る。
準基は朝は早く起きて運動をし……そして……
「おい!大地!!大河も!!起きろ!!会社だぞ!!ほら!起きろよ!」
毎朝、大地と大河を起こす。
何故二人が居候しているのか?
留美は会社の海外支社設立の為、オーストラリアへ赴任になった。
期間は一年間。
丁度その頃、大地も大河も住んでいたアパートの契約期間が満了に差し掛かり、準基と留美のマンションがリビングの他に部屋も三つあるので留美に相談し、二人は留美が居ない間の一年間だけマンションに住まわせてもらう事にした。
「先輩…眠いっす…。今日休みます……。」
「アホか!!早く起きて準備しろ!!メシ出来てるぞ!!」
準基は大地に言ってリビングへ戻ると大河が寝ぼけて座って半分眠りながら朝食を摂っていた。
「大河…起きてるか?」
「はい…大丈夫です。」
そして朝食を摂っていると…スマホが鳴る。
「留美!おはよう!」
準基は元気よく電話に出る。毎朝の日課だ。
「おはよう。準基!大河君、大地君おはよう!起きてる?」
留美はテレビ電話の向こうで笑顔で手を振る。
お互いのごはんの話をしたり、その日の予定を話したり、準基にダイエットは順調か?などを聞きしばしの時間を楽しむ。
朝食を取る30分程話して電話を切り、3人は急いで支度を始める。
寝癖を撫で付け、スーツに着替え、男3人で自宅を出ると隣のおばちゃんにいつも「仲良しだねー!」と笑われた。
留美の海外赴任が決まったのは、準基と留美が一緒に暮らし始めて3カ月半が過ぎ、桜が終わる頃に・・・急遽辞令がおりた。
「準基・・・海外に転勤になっちゃった・・・。」
留美の突然の発言に準基は菜箸が手からこぼれ落ちる。
「はぁ!?嘘だろ?!」
「ほんと・・・。何か海外に支社が一つ出来るみたいで・・・そこの新しく入ってくる従業員に仕事を教えて来て欲しいって。期間は約一年間って。」
留美は子供の様にわんわん泣き出す。
「どこだよ!?」
「・・・オーストラリア・・・。」
「・・・はぁ!??????」
「しかも沢木も・・・販売部から選ばれて行くことになったって・・・。」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」
そして留美は泣く泣く嫌いな諒太と共にオーストラリアへ旅立って行った。
「先輩、結構痩せましたよねー。」
大地は準基の新しいスーツ姿を見て、見た目が変わって来たと感心する。
「ああ。あれから半年過ぎて、ダイエット始めてから食事も和食中心にしてジャンクフードは絶って、大河たちと運動して18キロ痩せたよ。」
準基はドヤ顔で大河と大地に向かってポーズを決める。
「随分痩せましたよね。今何キロになったんですか?」
大河が全身を上から下まで見て聞く。
「80かな。」
「…身長も高いですけど…まだありますよね…かなり頑張ってますけど。」
「まあな、元があり過ぎだから…それでも結構早く落ちたよな。どれだけ不摂生していたんだ…とつくづく思うよ。」
準基はそう言いながら肌も綺麗になったと二人に嬉しそうに話し、大地と大河は苦笑いした。
会社に到着し、管理部へ入ると今では準基に女性社員から挨拶する様になった。
痩せたら…『名前の通りに金準基に似ていたんですね!』と絶賛され…丁度今の体型が金準基の吸血鬼役のドラマ辺りの体型らしく、似ていてカッコイイ!とやたら褒めちぎられ、食事会や飲み会にやたら誘われるが毎日若干憂鬱になっていた。
痩せた途端にこれか…とサッカーをやっていた頃の様だなと毎日思い出し、どれだけ自分の見た目が変わっても態度が一切変わらなかった留美がいかに出来た人間だったかをより思い知り、留美に対しては本当に愛おしさしかないし、尊敬に値すると思っていた。
主任になり数ヶ月か過ぎ、毎日目まぐるしく働く日々だ。
仕事もかなり覚え、任される事も多く、簡単なシステム管理も出来る様になった。
プライベートも仕事も自分の考え方や受け止め方を変えるだけでこんなにも人生が変わって行く事が楽しく、準基は自分に関わってくれる人に感謝でいっぱいだった。
昼になり、大地と大河が待つ食堂へ向かう途中、何ヶ月かぶりに愛莉と遭遇した。
「あっ……」
「ああ。佐藤さん、久しぶり。元気そうだね。」
準基は無難に挨拶すると、愛莉は準基の左薬指の指輪に気付いた。
「留美さんと結婚されたんですか?」
目ざとく見つけるので、鬱陶しいな…と思ってしまう。
「いや、まだ。でも近いうちにプロポーズするよ。」
「そうなんですね。やっぱりお付き合いしてるんですね。」
「まぁ、君が言った言葉で目が醒めた。自分にとって一番大切な人が誰かってね。手遅れになる前に気付けて良かったよ。じゃあ。」
「あの!!」
「何?」
思わず怪訝そうな顔をしてしまう。
「痩せて、素敵になりましたね。」
「ありがとう。でも君に褒められても1ミリも嬉しく無いよ。それと…佐藤さん。人を見た目で判断して悪く言ったりするのはよくない。君の品位を貶す事になる。やめた方がいい。じゃあ悪いけど大河と大地が待ってるから。」
準基がそう言って去ると、愛莉は悔しそうな顔をして暫くその場で立ち尽くしていた。
「先輩ー!おそーい!カツ丼冷めちゃったじゃないっすかぁー!」
準基の為に買っておいたカツ丼が冷めてしまったと大地は苦情を言い、温かいから美味いのにと語り出す。
「お前……まぁいいや。そのまま食べるわ。」
「準基さん、遅かったですね。」
大河が何かあったのかと聞いて来たので、佐藤愛莉に捕まっていたと言った。
「は!?」
「留美と付き合ってるのか?だとか、痩せて素敵になっただの。余計なお世話だよ。」
準基がぶつぶつ言うと、大地と大河は笑い出す。
「お前ら何笑ってんだよ?」
「いや、あんなに愛莉さん、愛莉さん言っていたのに凄い変わり様だと思って…笑えて来ました。」
大河は笑いを抑えながら笑い、大地は腹を押さえて笑う。
「あのなぁ、あんなクズ女あり得んわ。いいんだよ!あれがきっかけで留美を失わずに済んだから!」
準基はあんまり笑うなら晩御飯作らないぞ!と二人を脅し、大河も大地もすみませんと言いながら
も大笑いし続ける。
留美が居ないのは寂しいが、大地と大河のおかげでそれなりに楽しく暮らしている。
「今のところ迄で分からない所はある?」
留美は新人研修員達に、仕事の流れや仕事の内容を教えている。
元々総務部に居たこともあり、総務部に所属になった社員達にも仕事を教える。
オーストラリアへ来て早くも4ヶ月。
季節も春になり…南半球と北半球の違いを楽しみつつ過ごす。
「夏のサンタかぁ。やっぱりクリスマスって言ったらホワイトクリスマスー!とか、冬なのに…。夏のクリスマスなんて変ね?」
留美はランチタイムを仕方無しで日本人スタッフである諒太と取っていた。周りは外国人の若手ばかりでなかなか打ち解けるのは難しかった。
英語圏であるので、困りはしなかったが、諒太の悪ふざけのせいで、ここでも鬼課長と外国人スタッフに裏で呼ばれていた。
「4ヶ月かぁ…。お前準基さんと連絡取ってんの?」
「はぁ?当たり前でしょ?毎日Skypeしてます!早く会いたいわよ!あと、準基痩せてきて体締まってきたの。やっぱりめちゃくちゃカッコいい。」
留美は頬を赤らめ、きゃっきゃっして言う。
「あ、そーですか。やっとれんわ。俺も帰ったらお見合いしよー!」
「は?お見合い?由真は?」
「山田かよ!?!?」
「うん。そう、由真。」
留美はニコニコして諒太を見ると、「山田はなぁ・・・」とげんなりする。
「何でよ?」
「アイツは俺の事を貶す事しかしないんだよ。だから嫌だ。」
「正直にあなたの人間性について指摘してくれているだけだと思うけど?」
諒太は俺は完璧な人間だと言い張るが、年末の人の出入りの激しい退勤時の正面玄関で迂闊に告白して盛大に振られて大恥かくような奴の何処が完璧なんだと留美は突っ込む。
「うわ・・・お前のせいなのに、メンタルブレイクした・・・。」
「何言ってんのよ。さぁ、さっさと仕事終わらせて、帰って準基とまたSkypeしよーっと!!」
留美は立ち上がり食器を片付け昼の業務に戻った。
諒太も営業希望の従業員指導へ戻り、それが終わると街の自社のディーラーへ出向き売り上げ向上のための戦略やノウハウを店舗営業に教えるなどのコンサルティングもしていた。
何の因果か留美とオーストラリア行きになり、上司を恨みもしたが、正直玄関前での大失恋事件もあったので海外勤務になり暫く本社から離れられるので結果的によかったと思っていた。
親からは早く結婚しろだの、相手ぐらい居ないのか?と顔を見る度に言われ、ほとほとウンザリしていたのもあり、海外へ逃げれた事は諒太の心を休めるのに丁度タイミングが良かった。
留美を何とか自分の彼女にしようと思っていた矢先、まさかの留美に彼氏が出来てしまい、しかも幼馴染のずっとお互い思い続けてやっと成就という…もう絶対に結婚するよねパターンで、二人が一緒に居てとても仲睦まじい所も見たので諒太の中ではある意味吹っ切れた部分もあった。
なので親の言う通りに見合いして結婚するか、好きな女性と結婚出来ないのならば独身を貫くか?その2択になり、日本に帰る日までにゆっくり決めようと考えている。
だがオーストラリア赴任になった日から毎日?の様に由真からメールが入る様になっていた。
(元気ー!?留美からお見合いするかも?とか聞いたけど、あんたなんかとお見合いしてくれる人居るの?また悩んでんなら話くらい聞いてあげるから連絡しなさいよね。)
「倉本め…」
諒太は由真からのメールを見て思わず笑い、返信に(また連絡するわ。)と返しておいた。
そもそも由真が何故毎日メールしてくるのかと考えるが、考えている時にめんどくさくなり考えるのをやめていた。
「パース!パスパス!!」
大地はボールが回ってくるとそのままゴールめがけ走り出し、シュートを決める。
『イェーイ!また点入ったー!!』
大地チームは皆でハイタッチをし、準基チームは平均年齢も高いので、皆息が上がり座り込んでいた。
「鈴木君…やっぱり年齢混ぜないとしんどいねぇ。」
準基の上司が、若い奴らには敵わないなぁと笑いながらひっくり返っていた。
「ハハ、そうですね。やっぱり体力は負けますよね。」
準基も清々しい笑顔で言う。
「鈴木君、随分スマートになって来たけど、彼女の為かい?」
上司が笑いながら聞いてきて、準基は思わず赤くなり頷く。
「健康で居たいし、カッコよくなって彼女に早くプロポーズしたくて。ずっと…お互いがなかなか気持ち言えなくて、やっとお互いの気持ち言えて両思いって分かって…年齢もあるから早く言わないとって。」
「そっか。そういえば綺麗な彼女だよな。年初めから暫くここへ来ていた娘だよな?」
「はい。今はオーストラリアへ転勤になって…まぁ…あと八ヶ月後には戻ってきますけど。その前に…現地へ行って何かロマンチックに…なぁんて思ってるんですけどぉ!!」
準基がデレデレして話し、上司は「鈴木君は本当は明るくて、表情豊かな人だったんだね。」と話し、準基も自分自身に自信があるのと無いのとではかなり心持ちも人生も変わるから面白い反面怖くもあり、本当に自信が無い時は俯いてばかりで、夢も希望も無く、ただこのまま歳を取って朽ち果てていくだけなのだろうと思っていたと話した。
「先輩!もう一回やりますよ!!」
大河が言いに来たが、準基達中年チームは頼むからもう少し休憩させてくれと笑いながら頼み、仕方ないなと若者チームは受け入れ、その後もう一踏ん張り試合を始めた。
そして練習の合間、和樹が準基の所へ水を持ってやって来た。
「準基さん、お疲れですね。」
「ああ、お疲れ。和樹、お前凄い動きいいな。びっくりした。」
「俺、高校までサッカー部だったんで。これくらいなら。準基さんもドリブルとか上手いじゃないですか?」
「俺?プロテスト受けた人。」
「え!マジですか!?結果は…まぁ今ここに居るって事は…」
「そう。落ちた。でもまぁこれで良かったけどな。」
準基が笑いながら言うと和樹も一緒に笑い、会社に準基がいてくれて良かったと言った。
練習が終わり、自宅へ戻ると3人で軽く食事を済ませ、準基は部屋へ戻りパソコンを開いた。
オーストラリアは時差が日本より2時間進んでいる。
準基が時計を見ると、21時半だ。
(寝ちゃったかな…)
一応今日はサッカーがあると伝えてあったので、拗ねては無いだろうが、寂しい思いをさせたのではと思っていた。
留美にメールすると直ぐに返事が来てSkypeを繋げた。
「ごめんな。遅くなった。」
『ううん、いいよ。サッカーだったんだもん。今日はどうだった?』
「若手と40オーバーで試合したんだけどさ、もう終わった後でオッサンチーム皆んなバテバテでさ。若い奴らは体力あるなーって上司達と笑ったんだ。」
『そりゃそうよ!明日仕事大丈夫?』
「ああ、平気。留美と話すと元気になる。留美とこうして毎日話してさ。本当は触れたいけど…あと8ヶ月も会えないもんな…。旅費貯金してるからもう少し待っていて。」
『うん、待ってる。早く会いたいよぉ!!って、何か若い子みたいね。』
留美は恥ずかしそうに笑う。
「いいんだよ、素直な気持ちなんだからさ。俺だって…留美を沢山…」
『沢山?』
「心ゆくまで抱きしめたいんだからさ。」
準基は留美と話しある程度の時間で切ると、大地と大河の部屋へ入って行った。
「先輩、留美さんとSkype終わったんっすか?」
大地はビールとさきイカ片手に尋ねる。
大河もサッカーの疲れを癒すかの様に枝豆とビールを飲んでいた。
「ああ。あのさ、留美がこっちへ帰国するのにあと…8ヶ月じゃん。3ヶ月後の12月に…クリスマス過ぎちゃうけど、年末に合わせて留美の所へ行こうと思って…で…」
『プロポーズ大作戦ですか!?』
大地と大河は目をキラキラさせて準基を見る。
「お前ら…探偵かよ…」
「先輩がわかりやすいんですよぉー!」
大地はイェーイと親指を立てる。
「俺らも行く?大地。」
大河がニヤニヤして言うと、大地もいいねぇと言いパスポートの日付を確認しだした。
「大地、お前海外旅行行ったことあるのかよ?」
準基は驚いた顔をして大地を見ると、大地は大学時代、夏休み等に東南アジアやアメリカ、カナダへ一人旅へ行っていたと話し出した。
「行動力凄いな。そりゃ営業ピッタリだわ。」
大河は感心し、大地に飲め飲めともう一本ビールを勧める。
「それで、何でもどこでも平気なんだなお前は。」
準基も感心し笑い、本題を話し出す。
「留美にプロポーズするのは…やっぱり向こうは夏だから、ビーチがいいかなぁ?」
「オペラハウスの方が良く無いですか?」
「…そんなに人がいる所で?」
準基は恥ずかしくてどうかなるわ…と目を瞑る。
「いやぁ、留美さんにはそれくらいド派手に言って欲しいですよ。な、大地?」
「そうだな!!ド派手にがいいっすよ!ド派手に行きましょう!100本の赤いバラを用意して!!」
「なぁ、100本のバラって…花束に出来るのか?」
「大丈夫ですよ、花屋が上手く束ねますから。それよりも指輪の準備をしてくださいよ。」
大河はオーストラリアの花屋の検索を始めた。
「先輩!ド派手にデッカいダイヤの指輪にしましょう!!」
「アホか!!どんな金額だよ!?限界があるわ!!」
「まぁ、無難な値段で見栄えがすればいいと思いますよ。」
「大河…見栄えするのは…デカいだろ…。」
「準基さん、一生に一度の事ですよ。社会人になってからそれなりに貯めてあるんじゃないですか?」
「まぁ…な…。留美以外の女の人と接する事も無かったし…。」
大地はパソコンを開き、指輪の検索を始め、男3人でダイヤの指輪を延々と探す。
「あ、これいいかも…。」
準基は留美に似合いそうな指輪を見つけた。
「いいですよ!それ!留美さんに似合いそう!!ダイヤモンドも大きめだし!」
大河も絶賛する。
「明後日の休みに…この店舗まで行くか…。お前ら付き合え。」
準基は大地と大河も巻き添えにして出掛ける事に決めた。
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