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休み前のひと時
年内の業務も終了し、準基は帰る支度をしていた。
ちなみに忘年会も今日だ。
準備が遅くなり、予約がなかなか取れずに今日になった。
会社内も明日から休みに入るという事もあり、皆早々に忘年会会場へ向かった。
本当は部署ごとにやるように振ってやろうかと思っていたが、大地と大河と居たかった事もあり、全体にした。
会社近くに懐石料理の店があり、そこならば大人数でも入れてくれると言ったのでそこを選んだ。
「先輩!!幹事なんですからそろそろ出ないと!!」
のんびりしていた準基を大地が呼びに来た。
「あぁ、大地。ごめん、ごめん。大河は?」
「大河なら先輩の代わりに早めに忘年会会場へ行きましたよ。一応席の案内とか部署ごとに先ずは分かれてって指示出さないといけないから。」
大地はとりあえず早く片付けて行こうと急かす。
「わかった。しかし・・・怒涛の様に過ぎた一年だったな。」
準基は一年前にあった出来事を思い出し、留美との交際も一年が経ったことに感慨深げにしていた。
「ほんとっすね。ダイエットして、もうかなりスマートですよね。ほどよく筋肉でサッカーのお陰で全体的に締まりましたし。」
「あぁ。お陰で女性社員がうざいけどな。人は見た目で何でこんなにも態度が違うんだろうな。つくづくそれを感じる一年だったよ。」
「そうですね。僕も彼女にする子は留美さんみたいな女の子を探そうと思います。」
「怖いぞ。」
「いいんですよ。優しくて、厳しくて、美人で。」
「留美ほどの美人はなかなか居ないけどな。」
「探します!!」
「お前も行き遅れそうだな。」
準基がそう言って笑い、大地はほっといてくれと笑った。
会社を後にして、会場へ向かうと大河がげんなりした顔で入口に居た。
「大河、すまん。ありがとな!」
「準基さん・・・遅い・・。とりあえず部署ごとに分かれさせて座らせましたけど・・・疲れた。女の人たちがなかなか言う事聞かなくて・・・。」
「悪いな。さ、さっさと俺らも席に着こうぜ。」
準基は管理部の席へ行くと、女性社員たちが待ってましたと騒ぎ、苦笑いするしか無かった。
社長に乾杯をしてもらい、食事をしていると女性社員が準基の周りに集まって来た。
「鈴木主任!ビールどうぞ!」
一応社交辞令でビールを注いでもらい一口は飲んだ。
「鈴木主任、彼女さんと続いているんですか?」
30代の独身社員が聞いて来た。
「うん。続いているよ。休み中に彼女の出張先のシドニーへ行ってプロポーズするんだ。バラの花束100本とダイヤの婚約指輪を渡してね。」
準基がしれっと言うと、同僚たちが「結婚かよ?!」と騒ぎだし、一年前の準基では想像がつかなかったけど、頑張って良かったなと泣き上戸の同僚にビールを注がれ、準基はヤロー達で賑やかく騒ぎ出した。
「あの・・・」
大河は総務部で飲んでいると佐藤愛莉が後ろに立っていた。
「何?何か用?」
大河はため息交じりに愛莉を見ると、愛莉が隣に座って来た。
「準基さんって、本当に留美さんと結婚するんですか?」
愛莉は恐る恐る大河に確認してくる。
「あぁ。するよ。近いうちに俺らも一緒にシドニーへ行くんだ。準基さんはそこで留美さんにプロポーズするって。」
「そうなんですね。・・・あの時のこと謝って許してもらえるでしょうか?」
「うーん・・・無理かな。怒っているとかじゃないけど、準基さん、君みたいな人は生理的に受け付けないって。人を見た目で判断して、人を貶めて、無理だって。」
「ですよね。」
大河は不審に思い聞く。
「謝る理由は?」
「準基さんが・・・努力していて、役職になって、人って凄いなって。守りたい人がいるとあんなに強くなったり、努力が出来るんだって。尊敬に値する人間だったって思ったので・・・。」
愛莉はそう言うと俯いて薄く笑った。
「うーん、留美さんが人間出来ている人だからね。どんなに相手の姿形が変わろうとも態度が変わらないで、常にフラットな状態で接して。人を見下すこともせず。んで美人。準基さんの前だとめっちゃ可愛く笑うんだよ。そりゃ準基さん努力するよ。」
「そうですよね・・・留美さんがそういう人だから、準基さんは頑張っているんですよね。」
「なぁ、さっきから何で準基さんの話ししてくるの?君に関係ないじゃん?」
大河は話しかけてくる愛莉に対し不信感と嫌悪感でいっぱいだった。
「そうですね。関係無いですけど…留美さんと仲良く末永く続くといいなって思うのは本当の気持ちです。教えていただきありがとうございました。失礼します。」
愛莉は大河に礼を言って去って行った。
「大河〜!どうしたんだよ。」
大地が生中ジョッキ片手にニコニコしてやって来た。
「ん?いや、佐藤愛莉が準基さんと留美さんの事聞いてくるから。鬱陶しいなあと…」
「無視すりゃいいじゃん?」
「こういう場であからさまにはダメだろ?」
大河は肩を竦め大地を見上げる。
「まあな。」
「準基さんたち居る管理部のブース行こうぜ。」
大河は大地を連れて準基の居るテーブルへ向かった。
「嘘みたい、しんっじらんない!!」
留美は一足早く有給を取り連休と繋げてシドニーへ遊びに来た由真に毒づいていた。
「もー!留美は堅物クソ真面目鬼課長なんだから!そんなんだから行き遅れたんでしょ!」
「由真…あんたに言われたく無いわ…。」
留美がそう言いながら睨みつけると由真はにっこおとして笑顔になる。
「留美は日本戻るの?」
「ううん。準基が可愛い後輩二人連れてシドニーに来てくれるの!もー楽しみっ!!早く会いたいよ!」
留美は頬を赤くしてキャーキャー騒いでいた。
由真は留美のその姿に「女子高生か?!」と笑い、留美は若い頃に準基がカッコイイ!と騒げなかったから今騒いでるの!と笑った。
「準基さん、ダイエットどうなの?」
「うん…もう結構痩せて…高校の頃の様にはいかないけど、割と引き締まって…マジでカッコイイの。もう…悶絶もん。金準基と双子みたいにそっくり!」
留美はカッコイイー!と惚気まくる。
「そりゃカッコイイわ。結局美男美女かよ?つまらんなぁ。」
由真が毒づくと諒太が歩いてきた。
諒太は二人を見つけ、足早に駆け寄って来て二人が居た席に座る。
「…なによ?」
留美はジロっと見る。
「…睨むな。山田、お前暇だな。何でこんなとこ来てんだよ?」
「…あんただって明日から暇じゃ無いの?シドニーに会社があったって、日本本社が休みだからここも休みだもんねー!」
「おま…!倉本!お前は?!」
諒太が留美の顔を見ると、留美は満面の笑みで、
「明日から準基が後輩二人連れて遊びに来るの。休みの間中準基とラブラブですけど?何か?」
留美はドヤ顔で諒太を見ると、諒太は「ケッ」と言ってぐれた。
「沢木、あんたの相手は私がしてあげるわよ。心配しなくても。」
「はぁ!?山田かよ!?仕方ないな、俺が相手してやるよ。」
「なんっであんたが偉そうに上から言ってんのよ!?」
二人が喧嘩を始め、留美はめんどくさと思いながら眺め、明日から準基とどう過ごそうか思いを巡らせた。
忘年会も終わり、準基は酔っぱらい後輩二人を連れて自宅へ戻り、翌日のシドニー行きの準備を始めた。
「パスポートと…着替え…、あと貴重品は鞄に入れてっと。」
約8ヶ月振りにやっと留美に会える。
もっと長く感じるかと思ったが、意外と早かった。
早く留美に会って思いをきちんと伝えたい。
準基は落ち着かず、年甲斐も無くソワソワしていたが早目にベッドへ入った。
留美もその頃ベッドの中で準基に会えるのを楽しみにワクワクしていた。
大人なのに遠足を楽しみにしている子供みたいと笑ってしまう。
1年前、やっと気持ちを伝え合い交際する事が出来、嬉しく思っていた所に転勤指示が出て海外へ飛ばされた。
それでもそれまでいつも二人で過ごしていたのもあり、更に今はネットが進化して離れていても顔を見ながら話せる様になっている。だから寂しいけれど、寂しく無かった。
やっと明日8ヶ月振りに会える。
愛おしさが込み上げて来てどうしようもなかった。
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