幼馴染のヤキモチ?

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幼馴染のヤキモチ?

「ちょっと信じらんない!!このロリコン!!」 自宅へ戻ると案の定留美が窓から準基の部屋へやって来て、入って来た途端に猛攻攻撃が始まった。  準基は溜息を吐き、留美をチラッと見ながら「何が?」と言い放つ。 「何が!?じゃないわよ!!まだ二十歳そこそこの小娘じゃない!!そんな小娘にデレデレして馬鹿じゃないの?!」 留美は本当にキモイ、変態、ロリコン、オタク、ブタなど若干当てはまらないものもあるが準基の見た目だけで目茶苦茶言った。 「お前さぁ・・・人が傷つくって言葉知ってるのかよ。いくら幼馴染でも大人なんだから言っていい事と悪い事の区別くらいつけろよ。」 準基は怒り下の部屋へ下りて行った。 「人の気も知らないで・・・。」 留美は部屋へ戻った。 「準基、寝たじゃないの?」 カナオは下りて来た息子に梨を勧めた。 「買って来たの?」 準基は即座に手を伸ばし口に放り込み、うま。と言いながら三切れほど食べる。 「違うわよ。高知の伯父さんが送って来たのよ。」 「伯父さん、元気?」 「まぁ、元気よ。あんたさっき留美ちゃんと喧嘩してたの?」 母は聞こえてたわよと笑っている。 「は?あいつ、さっさと結婚して出て行けばいいのに、いつまで独身貫くんだよ?」 準基が毒づくとカナオは笑い出した。 「あんたも留美ちゃんの事言えないでしょ?」 「うるさいな・・・もしかしたら春が来るかもしれないよ。」 準基が言うとカナオは「はぁ?!」とぽかんとした。 「会社に最近入社して来た女の子が居て、その女の子と今日食事へ行ったんだ。だから頑張ったらもしかしたらうまく行くかもしれないよ。」 準基はドヤ顔で自慢する。 「あら、そう。」 カナオは納得していない顔だ。 「何だよ。」 「お母さんはあんたの相手は留美ちゃんだと思っていたのよ。」 カナオのその一言に顔が引きつる。 「勘弁してくれ。あんな暴言吐くやつ。」 準基はのけ反る。 「だって小さい時からいつも一緒に遊んで居たじゃない?てっきり大人になったら留美ちゃんと結婚するもんだと思っていたわよ。」 カナオはそう言って寝るわねと言い部屋を出て行った。 「留美なんか・・・冗談じゃない・・・。」 部屋へ戻りそっと覗くと留美は既に部屋へ戻っており居なかった。 何となくほっとして、窓を閉め準基も眠りについた。 翌朝 「おはよ。」 下へ下り、ダイニングへ行くと留美が何食わぬ顔をしてカナオが作った朝食を食べていた。 「……お前、何してんの?」 「ご飯食べてる。」 「イヤ…そうじゃなくて…。」 準基はポカンとして留美を見つめた。 「何よ?」 「まぁ、いいわ。」 留美の隣の椅子に座り朝食を食べ始める。 「ねぇ、狭い。」 「は?じゃあもう少しそっちへ行けよ。」 「準基がそっち行けばいいじゃない!」 「何で俺が動くんだよ!?」 「少しは動いたら運動になるじゃないの!?」 「そんなんでなるか!?」 準基と留美の子供の頃から変わらないやり取りを見てカナオと康生はポカンと二人を見つめていた。 「あのさ、準基…」 「何だよ。」 「ごめんね。」 留美は気不味そうだったが昨夜のことを謝って来た。 準基は留美のこういうところが憎めないな…と 思う。 小さい頃からだが、喧嘩した次の日には必ず本人が悪いと思ったらきちんと謝りに来る。 ただ、時間問わずで朝からこうやって押しかけて来て自分の母親のご飯を何食わぬ顔をして食べて、その後謝る。 準基は憎めないけど狡いなあ…と思う。 親の前で謝られたら許すしかない選択肢しか選べない。 「もういいよ。」 「ほんと!?ありがとう!!じゃあ、今日の夜ビール持って準基の部屋で飲み会ね!!」 留美はそう言って笑い、会社へ行くと先に出かけて行った。 「お兄ちゃん、留美ちゃんとお兄ちゃん見てると付き合っているとしか思えない距離感だよ。」 麻央はいい加減付き合えよと呆れた顔をして準基を見た。 「留美とはそんなんじゃないよ。ただの幼馴染。男友達みたいなもんだ。」 準基は否定する。 「お兄ちゃん、訳の分からない女の子に振り回されていないで留美ちゃんにしておきな。」 「はぁ?」 麻央はそう言い残して会社へ出かけて行った。  準基はイマイチ腑に落ちないと思いつつも食事を済ませ、自身も着替えて家を出た。  駅に着くとまた愛莉が待っていた。 「おはようございます!」 朝から可愛い笑顔といい香りに、準基は意識を奪われそうになる。 「お、おはようございます。」  愛莉はあざと可愛いという言葉がぴったりな感じで「ここで準基さん待っていたら…来るかなぁ?って思って待っていたんです!」と言い、ギリギリ39歳経験ナシ女性と手を繋いだのは保育園以来の男には堪らない衝撃的な言葉である。 「あ…そうなんだ…あ!そろそろ電車乗らないと遅刻する。急ごう!」 準基はテレを隠す様に息を切らしながら愛莉とホームへ急いだ。  電車に乗り、愛莉を壁側に立たせて痴漢から守る。準基は何故か使命感を感じ、愛莉を護ることに集中していた。 「準基さん、大丈夫ですか?」 愛莉は上目遣いで準基を見る。  経験の無い男にはかなり効果的な女性からの上目遣い。 準基もその一人で、(愛莉は自分の事を好きなのではないか?)という錯覚をさっそく起こしていた。食事に行った時点で既に自分に興味があるのでは無いかと思う錯覚を昨日から起こしまくっていた。 駅に着くと会社の同僚や、上司が二人を見つけチラチラと見てくる。  愛莉は同僚を見つけ、準基に手を振り離れて行った。 「セーンパイ!おはよう御座います。久しぶりっすね!」  愛莉を見ていた所へ後ろから規格外にデカい声で朝から呼び止められる。 会社で唯一準基の心許せる後輩、金橙大地。営業部所属。スポーツマンで、趣味は筋トレ。準基に運動しようと誘うがなかなか誘いに乗ってくれないので、週イチで誘う事に決めている。 「先輩!運動…」 「しない。このままでも受け入れてくれる女性は居る!」 準基は断固拒否だ。 「健康の為にした方がいいんじゃないですか?」 大地に言われ、家族に言われた事を思い出す。 そして何故か余計にやりたくないと思ってしまう。 「健康診断で三大疾病か高血圧や糖尿病で引っ掛かったら考えるわ。」 「今回の理由は60点ですね。」 大地は準基の苦肉の策を笑う。 何とか理由を探して断る口実を毎回準基は考え、大地はそれに対して点数を必ずつけるというやり取りを毎月していた。 「大地、なかなか厳しいな…。」 「簡単には合格点はあげませんよ。それに、先輩は痩せたらきっとイケていると思うから…諦めません。」 大地は毎回目を爛々とさせてそう言う。 「長い片想いになりそうだな。」 「本当に、女落とすよりも大変ですよ。」 そう言って大地は営業部のあるフロアでエレベーターを降りた。 「おはようございます。」 準基は挨拶しながら入ると同じ部署の男性従業員が準基の元へ集まって来た。 「鈴木さん、経理部のあの新人さんと付き合って居るんですか?」 興味深そうにニヤニヤしながら聞いて来る顔を準基はしっかり見ていた。 答えるのも馬鹿らしいがしつこく聞いて来るので当たり障りなく答えると「なんだぁ・・・100円かけていたのに、つまんねぇの。 同僚たちは掛けに負けたと笑い、準基の周りを去って行った。 (賭けの道具にするな・・・。)と心の中で毒づき仕事を始める。 「鈴木さん、コピー用紙の在庫が残り少ないんですけど、注文しておいてもらっていいですか?」 女性従業員に言われて「はい。」と返事をし、備品倉庫へ在庫を確認しに行く。正直自分で見に行けよと思うが、下手に言ってまた口答えされて嫌な気持ちになるくらいなら自分がさっさと動けばよいと社会人になって学んだ処世術だ。 在庫倉庫はビルの地下にあり、普段人もほとんどおらず格好のサボり場になっている。酷い奴だとそこでいちゃついている従業員もいる。(盛りのついた猿だな。)と音だけ聞いて準基は自分には未来永劫御用の無い話だと思っていた。 だが、愛莉とのことがあり、少しの希望も持てるようになった。別に会社でどうのとかいう事は年齢的に恥ずかしいから無いが、「近い将来彼女と・・・」と毎度思うようになっていた。 倉庫を覗くと、皆が出して行ったと思われる状態で中が乱雑になっている。 準基は一棚ずつ片付け、コピー用紙を確認するとあと5箱しかなかった。 (残り10箱になったら管理部へ連絡となってるだろ・・・。)と思いながら他にも足りない在庫や規定数以下になっている物が無いか確認し、管理部へ戻りネットで注文した。  夕方帰宅し、夕食と風呂を済ませ部屋でゆっくりしていると窓を叩く音が聞こえる。 言わずもがな留美だ。 準基はふっと笑い、立ち上がり窓を開ける。 「お疲れ!ねぇ準基、これ持って!」 留美はビールが沢山入った袋を準基に渡す。 ビールの次はツマミが山程入った袋を渡され、留美が部屋へ転がり込んで来た。 「よし!」 「…よし!じゃない…お前、このビールの量は一体何だよ?!」 準基はビールが山盛りに入った袋を見て溜息を吐いた。 「何だよ?って、お酒!さぁ!準基飲もう!明日は土曜日だし!あ!あとあんたのテレビで今人気のあのドラマ見よう!」 留美はそう言ってリモコンを取り、NetFrixsで韓国で人気のドラマをつけだす。準基は実は一通り見たが、留美が見たくて仕方が無いので折れて一緒に見出した。 ドラマを見ていると留美が一つ溜息を吐く。 「どうしたんだよ?何かあったの?」 幼い頃から何かあると留美は必ず溜息を吐いているのを思い出し聞く。  「あのさ、実は・・・こないだ会社の人から告白されたの。」 唐突に留美が言い出し、準基はびっくりしてビールが気管支に入ってしまい盛大に咽せる。 「やだ!大丈夫!?」 「お!お前が有り得ない事言い出すからだろ!?どんなもの好きだよ!?」 イヤイヤ無いないと首を振る。 「失礼ね・・・居るわよ、中には。」 「どうせバツイチか全くモテずに来た奴だろ?」 準基は留美の様子を見ながら言う。 「・・・嫌なやつね。当たり。バツイチの上司よ。絶対に嫌だからお断りしたわよ。それにしても失礼よね。私が40近いからって、相手は誰でも良いだろ見たいな感じで値踏みされるんだもん。」 留美は怒りながら2本目のビールの蓋を開ける。 「仕方ないよな。でもさ、何でお前結婚しないの?母さんも妹も留美が何で結婚しないのか不思議がっていたぞ。俺もそう思うし。」 「う~ん・・・昔好きな人が居たんだけど・・・ちっとも気付いてくれなくて。それ以来真剣に恋をする気持ちが失せた。」 留美は少し怒り口調で準基に何故結婚しないかの理由を教えた。そしてビールをぐいっと飲み、「もういいじゃん、飲もうよ!」と話しを切られた。  ドラマを見てドラマの内容について二人で話したり、つまみはこれが美味しいやこれはイマイチだとか幼い頃の様に楽しく話す。正直準基は(こいつと一緒になった方が楽だよな。)と社会人になって何度か考える時もあったが、留美の態度にその可能性は無いかと自己完結し今日に至っている。 「準基。」 「ん?」 「あのさ、あんたあの子とどうなったの?」 留美は一番の関心ごとを聞く。 「あー・・・別にただの後輩って感じかな。未だ何も始まっていないし。」 ありのままを話すが、留美は訝し気に見る。 「あの子さ、今朝も駅に居なかった?」 「知ってたの?てか見てたのかよ?」 準基は驚いた顔をして留美を見る。 「見てたって…時間が同じだもの、イヤでも見るわよ。ねぇ、約束していたの?」 「いや、勝手に・・・あの子が居るだけだよ。何かマンションが近いとか言って。」 「それだけ?あの子何考えているのか分からないわよ。騙されないようにしなくちゃ!」 留美は興奮気味に話す。 「騙すって・・・そんな事するような子じゃないよ。留美も考えすぎだって。」 笑いながら準基は留美にもう1本飲めとビールを勧める。 「あんた優しいから付け込まれないようにしなさいよ!!ほんとに免疫も無いんだから・・・幼馴染として正直心配よ!」 留美は若干興奮気味に準基に怒る。 「ありがとな。留美。」 「もう!!ほんとにお人好しなんだから!!騙されないか心配しか無いわよ!!」 「大丈夫だって!」 「ああいうタイプの女が一番ヤバいの!」 留美はいい加減にしろ!と叫びながら準基にビールを勧め、二人で飲んだくれるだけ飲んだ。 「んあ・・・だぁ、何だこれ?」 準基は飲みながら寝てしまったらしく、寝相の悪い留美の足が準基のお腹に乗ってびっくりして目が覚めた。 隣を見ると留美が気持ちよさそうにヨダレを垂らして眠っている。若干胸元がはだけ、準基は目のやり場に困る。 (おい!!何でそんな事になってるんだよ!?)と心の中で盛大に叫び、留美の胸元を布団で急いで隠しとりあえず安心する。 寝顔だけ見ていたら本当に留美は美人だ。何で高校の頃に自分の気持ちをきちんと言わなかったのだろうと、この寝顔を見ていると思ってしまう。 言って居たらきっと今と違う人生になっていたのだろうな…と考えてしまう。 準基は色白の留美の頬をそっと触る。 「あの頃、お前が気付いてくれていたらな・・・。」 準基は小声でつぶやいた。    
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