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社員旅行
秋も深まり、周囲は黄色の落ち葉の絨毯が出来、20年間太っている準基にはありがたき涼しい季節がやってきた。
留美とは相変わらずの酒飲み仲間の様な状態で、ディズニーでの出来事は本当に「夢の国」のマジックだったのかと思うほどだった。
だが少し変わったのは今までよりも時として甘えたりしてくる事もあり困惑する事が多々あったが、実際留美の心が分からないでいたが、愛莉の事は好き?でもやはり留美を手放すのは心のどこかで嫌だ、無理だという気持ちもあった。
そんな風に思う準基自身も(大概ズルイな…)と感じていた。
「先輩!!はい!!おばちゃんとこの激安弁当!!」
久しぶりに大地、大河と昼食を会社近くの公園で取る事にして男3人で集まっていた。
「準基さん、留美さん元気ですか?また俺も大地も留美さんに会いたいんですけど?」
大河も大地もあれ以来すっかり留美のファンになり、準基は何となくモヤモヤと落ち着かないでいた。
「はぁ?留美と?・・・どうしよっかなぁ?」
後輩二人が懐くほどの留美の愛想の良さに若干腹が立つ。
「先輩?留美さん、フリーですよね?だから俺や大河が食事に誘っても問題ないですよね?」
大地は準基の様子を見ながら揶揄いながら話し続けると準基はどんどん眉間にシワがより始め機嫌が悪くなる。
「準基さん!この際ですからはっきり言います!!先輩は佐藤愛莉よりも留美さんをきっと愛しています!!」
大河もいい加減気付いてくれと準基に言い続けていた。
「・・・あのなぁ、留美は幼馴染。それに愛莉さんとのことは大切に育てたいから、応援してくれるつもりが無いならほっといてくれ。」
準基は昼を食べ終えて、書類袋から社員旅行のプラン表を出した。
大地が目ざとく書類をじっと見る。
「何だよ?」
「先輩、温泉がいいですよ!女性社員の浴衣姿!俺は留美さんの浴衣姿が見たいです!!」
大地が張り切って言うと、準基は手に持っていた書類で大地の頭を叩いた。
「アホか!留美は別会社!!同じ会社じゃねーよ!!」
ツッコミどころ満載の大地にツッコミを入れる事が会った時の恒例になりつつある。
「あぁ、そういえば・・・留美さんって何しているんですか?」
大河は留美が3ナンバーの普通車に平然と乗り、割と綺麗めな格好をして、持ち物もメーカー品を持っているので何の仕事だろうかと気になっていた。
「留美?大手自動車会社の貿易課だよ。ああ見えて一応英語も話せて、趣味で韓国語も話せるよ。下手すりゃ俺、年収抜かれてるかも。」
準基は笑う。
「目茶苦茶才女じゃないですか?!」大地は興奮して、「留美さん素敵だぁーっ!」と、昼中の公園で叫ぶと当然周りから白い目で見られる。
準基は「手出すなよ。お前みたいなお子様には手に負えない女だ。」と言って旅行プラン表に再び目を通し始める。
大河が今度はそれを覗き込み「準基さん、さっきから見ているそれ・・・今年の社員旅行のプランですよね。」と聞いて来た。
「あぁ。管理部の仕事にってか、皆面倒くさいから俺に押し付けるんだよ。それに、選んだ旅行が気に入らない人も居たりして、そういう時に文句言われたくないからさ、何言われても平気そうな俺に押し付けるんだよ。もう慣れたけど。」
準基はそう言いながら薄く笑う。
「今年は何処に行く予定にしているんですか?」大河が興味深そうに聞いて来る。
「うん、去年は福島へ行ったから、今年は群馬辺りの大地が言ったとおりに温泉にしようかな。よし!群馬の草津温泉に決定だ。」
準基はそう言うと旅行会社に見積もり取るからと足早にオフィスへ戻って行った。オフィスへ戻る途中、ランチに向かう途中の佐藤愛莉と出くわした。
「準基さん!!お疲れ様です。お昼食べました?」
いつも通りの愛らしい笑顔で聞いて来る。
「はい。大地と大河と激安弁当をね。愛莉さんは?」
「私は経理課の人と今からランチへ行くんです。」
「そっか、気を付けて。」
「はい。あ!準基さん、また一緒にランチ行きましょうね!」
愛莉はそう言って経理課の人とランチへ向かった。
管理部へ戻りメールやFAXを使って幾つかの旅行会社へ見積もりを取っていると、同じ部署の女性社員が近づいて来た。
「あの、鈴木さん。」
珍しく声をかけられ準基はびっくりして顔を上げる。
「は・・・はい。何ですか?」
「突然ぶしつけにお聞きしますが、これって・・・鈴木さんですよね?」
女性社員にスマホの画面を見せられじーっと見ると・・・留美とディズニーデートをした時の写真が目の前にある。
「え!?何で!?」準基は絶句する。
「これ、実は・・・業務課の人たちが鈴木さんと同じ日にディズニーへ行って居たらしくて、それで・・・この髪の長いミニーの耳カチューシャつけている女性があまりにも美人で、写真撮ろうとしたら・・・鈴木さんが一緒に居て、しかも凄く仲睦まじくて手を繋いだりしていたから・・・業務じゃ鈴木さんに目茶苦茶美人な彼女が居たって話題が持ちきりなんです。しかも会社で見る鈴木さんとは全く違って話し方や仕草まで違ったって。この美人さん・・・彼女なんですよね?」
まさか写真に撮られているとは思わず準基は眩暈がした。確かに留美はその場に居るだけでも目立つ。会社の株主総会にも司会で抜擢されたり、社長が留美を海外出張へ同行させる時があるくらい華があるが・・・こんな完全プライベートでも見ず知らずの人間に写真を撮られて驚きしかなかった。
「あー・・・彼女じゃなくて・・・幼馴染なんだ。」
「え?」
女性社員は嘘だ…その距離感は…嘘だと言いながら準基の元を去って行った。
「先輩、あの写真は無理がありますよ。彼女にしか見えません。」
いつの間にか大地が隣に来ていた。
「・・・見ていたのか・・・。」
「はい!!」
「大河は?」
「昼から総務部にお客様が来るらしくて、それで準備があるからって戻りました。」
「そっか。なぁ彼女にしか見えないよな・・・。」
「はい。先輩は…佐藤と留美さんと本当はどっちが好きなんですか?」
大地は心配そうに聞いて来る。
「愛莉さんかな?」
「思いっきり偽ってないですか?」
「あ!経理へ行って社員旅行の予算聞いて来ないと。じゃ、また週末にでも大河と家へ来いよ。留美のお転婆見せてやるから。」
準基は適当にはぐらかし、逃げる様に経理課へ向かった。
経理課の課長と社員旅行の予算組の話をし、ビンゴ大会の景品やバスの中の弁当、おやつ、飲み物代まで算出する。
「さすが、鈴木君。慣れたもんだね。」
課長が誉めると準基は「恐れ入ります。」と言い、管理部へ戻った。
管理部へ戻ると相変わらず準基の方を見て皆がこそこそと話していた。
留美と居ただけでこの有様で、実際に彼女…又は嫁だったらどれだけの男どもに恨まれるのかと思うと背中に寒気を感じる。
そんな事を考えながら仕事をしていると管理部の入り口に佐藤愛莉が立っていた。
準基は視線を感じ、顔を上げて管理部入り口を見ると直ぐに愛莉を見つけ、立ち上がって愛莉の所へ駆け寄った。
「愛莉さん!どうしたんですか?」
「あの…会社内で噂になっていて…」
「え?あの…何がですか?」
準基は自分と愛莉が噂になっているのかとドキッとする。
「準基さんと…留美さんがディズニーデートしていて…って。留美さんとお付き合い始めたんですか?」
愛莉は子犬の様な悲しそうな目をして準基を見上げると準基は違う!違う!と被りを振り否定する。
「あれは、大地と大河を家まで送って…近くまで行ったからだよ。」
準基がそう説明すると愛莉は首を傾げ不思議そうな顔をする。
「近くへ行っただけで付き合っても無い女性とディズニーなんて行きますか?!」
愛莉はわざと周りに聞こえる様に騒ぎ、準基はさすがに鬱陶しくなった。
「愛莉さん、留美は僕の大切な幼馴染の女性なんだ。だから留美が行きたいって言えば僕は彼女の望みを聞いてあげたい。」
「やっぱり留美さんの事とても大切なんですね。」
愛莉は無理矢理笑顔を作った様に見せ準基を試すと準基は我に返る。
「あ!でも、愛莉さんが行きたいって言ったらもちろんお供しますよ!」
「ほんとですかぁ!?じゃあー…また近いうちに連れて行ってくださいね!」
愛莉はそう言い残してニコニコしながら戻って行った。
「ほんとですかぁー!?じゃあーまた近いうちに連れて行ってくださぁーい!だって。マジキショッ!」
いつの間にか大地と大河が管理部へ来て準基と愛莉のやりとりの一部始終を見ていた。
「大地…キショはねーだろ?あんな可愛い子に対して。」
「準基さん、アイツは準基さんの事カモがネギ背負ってくらいにしか思っていませんよ。少し冷静になってくださいよ。」
大河も溜息混じりに準基に言い、いい加減にしてくださいとボヤく。
「カモネギって…お前ら女帝が言ったからって鵜呑みにし過ぎだぞ。いい子じゃないか愛莉さん。」
二人がどれだけ言っても準基が完全に愛莉推しになっており、大地も大河も大きく溜息を吐きダメだこりゃとその場に座り込んだ。
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