社員旅行

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 そして、1ヶ月後、社員旅行の日になった。 「ねぇ!準基!お土産買ってきてよ!!」 留美は朝から準基の部屋へ来てお土産をねだっていた。 「お前なぁ…なんっでいつもパジャマの胸元はだけ気味なんだよ!?俺を誘ってんのか!?」 準基は朝から平常心を保つのに必死になっている。 「だから!何で胸元見るのよ!スケベ!!しかもこういうパジャマですぅ!!」 留美は反抗する。 「お前!大地と大河来てる時にそのパジャマ来て俺の部屋来るなよ!!」 「行かないわよ!!そんな事くらい弁えてます!!もう!!準基のスケベ!変態!!早く行きなさいよ!!」 「はい、はい。変態は行ってくるわ。明日の夕方には戻って来るから……お土産沢山買ってくるからな。」 「うん。待ってるね。お酒ね!地酒!じゃあ気をつけて。」 留美は素で笑顔で言った。 準基は何故か赤面し、「行って来ます。」と言って部屋の扉を閉めた。  留美は準基を見送る為だけに有給を取っていたので、そのまま準基の布団に入り込み眠る事にした。 「おはよう御座います!皆さん座席表を見たらバス入口のお菓子セットと飲み物を持って乗車してください!」  会社に着くなり管理部旅行部長としての仕事を始める。 今年は大地も大河も手伝ってくれとてもありがたい。 「ありがとうな。手伝ってくれて。」 「先輩を佐藤愛莉から守る為でござる。留美さんの元へ無事に返さなければ。」 大地はニコニコと言う。 「大袈裟な…それに、この旅行で愛莉さんと少しでも近付きたいのに…何で留美の名前出すかな…。」 やれやれという顔をして後輩二人を見る。 後輩二人もやれやれという顔をして準基を見た。  そして全員乗車し、社員旅行が始まった。  バスの中でそれぞれの課の課長やら部長が長々と演説してくれるので、道中退屈せずに済むが、いつまでもその話に耐えうるだけの体力は無く、一人、また一人と眠ったり、スマホで音楽を聞き出したり、動画を見出す者が出てくる。 大河と大地とは課が離れている為バスは別だ。部長のつまらない話しを一応片耳に入れながら窓の外を見て過ごす。  暫くすると珍しく留美からメールが入り、「今、準基のお布団で寝てます。今日ベッド借りるねー!」と書いてあった。 (おい!?…留美?!)   (こら!!何で俺の布団なんだよ!?臭いとか言ってたじゃないか?!) 準基は直ぐ返信する。 (だって…今日の夜準基居ないんだもん。) (はい?!何で俺が居ないと俺の布団入るんだよ?!) (準基居ないの寂しいんだもん。)  留美のあまりにも素直な返信に顔は熱くなるわ、動悸がしてくるわでどうかなりそうな所へとどめで準基のベッドで寂しそうに寝転がる留美の自撮り写真が送られてくる。頬を少し膨らませ、40手前に見えない幼い顔立ちのいつも見慣れているはずのすっぴんの留美にドキっとしてしまった。 (…お前…俺を揶揄うのもいい加減にしろ。)  留美は返信を見て、「はぁ〜…」と、深いため息をついた。 何でこんなに素直に送ってるのに分かってもらえないのか?ともどかしさにイライラして来たが、きっと今更言ってもなかなか信じてもらえないのだと思い、 (べーっだ!!) と、返信した。  「べーっ!て…」準基は留美の返信にポカンとし、(仕方ない奴だ…)と心の中で笑った。  バスは目的地の観光地、伊香保神社に到着した。 階段を登ると金運が上がると言われており、社員達は楽しそうに意気揚々と登っていた。 「準基さん!!」 愛莉が準基を見つけ走って来た。 「ねぇ、ねぇ、一緒に登りましょ!」 愛莉は準基の手を引く。 そこへ、後輩二人も参上!と言いながらやって来た。 「準基さーん!ダメじゃないですかぁ。そんな若い子たぶらかしちゃぁ。」 大河が愛莉をチラッと見て言う。 「先輩!その子狙いなら留美さん貰っていいですよね!?」 大地はガチ狙いなのか、冗談なのか?と思わせるように準基を煽って来る。 「だから!留美はダメ!」 「何でですか!?」 「ダメったらダメなんだよ!!」 「はぁ!?!意味分かんないっすよ!?留美さん先輩の彼女じゃないなら俺が狙ってもいいっすよね?!」 「だーかーらー!留美は俺のた……」 「準基さん、大地。皆んな見てる…。」 大河は二人に周りを見ろと促し、皆が注目している事に気付き恥ずかしさで下を向いた。 「準基さん、やっぱり留美さんの事好きなんですね。」 愛莉は企む様な笑顔で準基を見る。 愛莉がまた話しを蒸し返してきたので大河は睨み付けたが、愛莉は知らん顔して横を向いていた。 「幼馴染だから。でも恋愛感情はどうかな?長く居過ぎてわかんないよ。」  準基もまたわざわざバカ丁寧に答えるので、大河は大概ムカムカして来ていた。 「そうなんだぁ。でも留美はダメって…準基さんはいつも留美さんのことが頭にあるんですね。」 愛莉はワザとあざとく寂しそうに言う。  大地と大河は(この女…)と思ったが、準基は頬を赤くして「いや、だからただの幼馴染だから!」と言って鼻の下を伸ばしているので、後輩二人は(殴ってやろうか…)と思いながら準基の腕を掴み、「行きますよ!」と階段を登り始めた。その後ろをまた愛莉が「待ってぇ〜!」とわざとらしく言いながら追いかけて行った。  草津白根山では景色を楽しみ、準基はどさくさに紛れて愛莉と写真を撮っていた。 「…大河…あれ写真撮って留美さんに送っていいかな?」 大地はムカムカして大河に聞く。 「いいんじゃない?動画にしろよ。それで帰ってから留美さんにシバかれればいい。しかし、あの女…絶対金目当てだよ。あいつの分さっきから全部準基さんが払ってるよな?」 「マジでカモだ…。」 二人はしっかり監視しており、最悪総務課で要注意人物リストに早速入れてやろうと思っていた。  大地は留美のスマホに愛莉と鼻の下を伸ばして写真を撮っている準基の様子の動画を送った。 〜♪  留美は準基の部屋ですっかり眠っており、スマホの音で目が覚めた。 見ると、先日電話番号を交換した大地からだ。 「なんだろ?」 メールを開けると大地が撮った動画が流れて来た。ニヤニヤとだらし無い顔をして愛莉にデレデレの準基の顔にムカッとし、大地に返信した。 (大地君!大河君!あの、変態おじさんの監視しっかり頼むわね!帰ってきたら準基の顔パンチしてやるんだから!!) 怒りに任せて留美はメールを打つ。 〜♪ 「大地、留美さん。」 二人で覗き込み返信内容を確認する。 『…コワ……。』 留美の文面だけでイラつきがわかり、二人は身震いした。  その後も何処へ行くにも愛莉が引っ付いてきて大地も大河もイライラして過ごしていた。 準基が愛莉に飲み物を買って来ると離れた隙に経理の女性社員達が愛莉に近寄ってきたので、大河と大地は隠れて様子を見ることにした。 「ねぇ、ねえ。佐藤さんって鈴木さんとよく居るけど、付き合ってるの?」 経理課女子達は笑いながら話していると愛莉も一緒になって笑い出す。 「えー!?やだぁ!あんっな超デブで、脂臭くて、おっさんで、目が細くてキモい人なんか好きじゃないし!付き合ってないし!やめてよぉ!」 愛莉もナイナイと笑いながら否定している。 「だよねー。けど、あの人さぁ超美人の彼女?居るんでしょ?業務の人らが言ってた!」 「あー!あの、年増女?!」 愛莉が笑いながら言う。 「えー?知ってんの?」 「あー、一回駅でね、見かけた。だって、アイツと同い年よ?年増じゃん。」 「そうなんだぁ!業務の人に写真見せてもらったけどぉ、まぁ綺麗にしてたら歳は何とかなるのかしらねぇ!」 愛莉を含め、経理の女性社員が大声で笑っていると、留美の事まで悪く言っている事に大地はイライラが頂点に達し、「あいつら全員殴ってくる!」と怒り出し飛び出そうとした。 「やめろ!大地!我慢しろ!」大河が静止した直後に、更にトドメで愛莉は見た事もない様な嫌な顔をした。そして… 「あの、デブ絶対女性経験無さげじゃん?だからああいう奴はちょっとか弱く接して、こっちがふにゃふにゃしていればカンタンに落とせるのよ。自分みたいなのでも相手にしてもらえたぁ!って勘違いするのよ!だからそれで金ヅルにしてやろうと思って。どうせ使うとこも無いんじゃない?」 そう言って愛莉はまた大笑いした。 周りの女性社員達も「やだー!佐藤さんたらあくどいー!」と大笑いしている所へ準基が少し後ろで全て聞いていた。 「あ…ねぇ!ちょっと、佐藤さん!」 一人が気付き、愛莉の肩を叩く。 「あっ…」 準基はニコッとし、飲み物を愛莉に渡してその場を離れた。 大地も大河も愛莉や経理課の女達に腹が立ち、 「クソ女どもめ!」 と言葉を投げつけ、準基を追いかけた。  準基は山を下り少し離れた人気のない休憩所に座っていた。 大きく溜息を吐いて目を瞑る。 分かっていた。そんな事は心の何処かで初めから。結局この見た目で相手にしてくれる女の子は居ない。  大学に入り人生最大に太り、誰からも相手にされず、サッカーをやっていた頃の事が幻の様に感じていた。痩せていて、カッコよく見えて、派手に目立つ事をしている時だけ寄ってくる。そうでなくなった途端離れて行く。  けれども留美だけはどれだけ準基が変わってもずっと変わらずに側に居てくれた。  だから何よりも愛莉が、自分以外の人間が留美の事を悪く言っていた事に酷く腹が立つ上に、自分よりも歳下の小娘に勘違いし、振り回されていた自分自身に情けなくて涙が出て来た。 「先輩!!」 大河と大地が走って息を切らして準基を探しに来た。 「お前ら…せっかくの草津温泉なんだから楽しめよ?俺の事はいいから。」 準基は顔を見られたくなくて俯いたまま二人に行けと促すが、大地と大河は側を離れなかった。  そして、大地は準基に話しを持ちかけた。 「準基先輩、痩せましょう。痩せて元の様にカッコよくなって、あのバカ共を見返してやればいい。先輩のサッカー部時代の写真…見たんです。先輩の自宅で。」 大地は全面サポートして協力すると宣言する。 「えと…見返すのでは無くて、留美さんにきちんと気持ちを伝える為に健康的に痩せて、昔のカッコよかった頃の準基さんに戻るという考え方の方がいいかもしれませんね。」 大河はそう言いながら準基の目の前に座り込んだ。  優しい後輩二人に感謝の気持ちが溢れて来る。 「ありがとうな…二人共。そうだな…健康の為と留美に愛される様に今度こそ本気でやるよ。本当に情けなくて…今日は思いっきり飲んだくれてやる!!」 準基はそう言って立ち上がり、後輩二人を連れて集合場所へ向かった。 『はぁ!?何それ!?失礼にも程があんでしょ?!あの、クソガキめーっ!!』 留美は大地と大河からの電話でかなりキレて暴言を吐きまくっていた。 「る…留美さん…怖い…。」 『怒るに決まってんじゃない!!私の事はともかく、準基を傷付けるなんて絶対!ぜーったい!許さない!!』 留美のその言葉に二人は「本当に準基さんの事愛しているんですね。」と言うと、『当たり前でしょ?じゃなきゃ準基に合わせてこんな歳まで独身で居ないわよ。まぁ勇気がないヘタレなんだけどね。』と留美は恥ずかしそうに笑って言った。  その後も三人で今後のプランや、どんなダイエット方法で準基を健康的に痩せさせるか話し合いをした。 『あ、そうだ。ねぇ準基は何してるの?部屋一緒よね?』 留美は忘れてた!とカラカラ笑う。 「先輩はさっき夕食時に今日の事でやさぐれて飲みまくって、飲み過ぎなくらい飲んで布団でひっくり返って爆睡してます。」 大地は笑いながら言い、準基の鼻を摘む。 「留美さん、明日…多分先輩二日酔い酷いと思うんで…夕方って迎えに来れますか?定時で終わります?」 大河は心配だからと留美に頼む。 『うん、大丈夫。その様に調整するし、明日はリモートだから。行けるわ。準基に内緒にしておいて!すっごく可愛く?して行くわね。』  留美は必ず行くと約束した。 翌朝… 「あー…ったまいてぇ…。」  準基は二日酔いの頭痛で少し早く目が覚めた。  そしてまた両隣に大河と大地が爆睡している。  部屋の窓を開けて空を見上げるとよく晴れた秋空だ。もうあと数ヶ月で年末という事もあり何となく肌寒い。 「一年なんて直ぐだな…」 年が明けて数ヶ月したら40歳だ。 昨日の事はもう終わった事だとキリをつけ、今日からしっかり健康的に痩せる為にどうしたら良いか考えねばと頭の中を巡らせていた。  あの後愛莉は準基に全く話しかけなくなり経理課の同年代ぐらいの女性社員達と騒いでいた。 〜♪ 急にスマホが鳴り出し、画面を見ると… 「留美だ…」 準基は急いで電話に出る。 『おはよ、準基。どう旅行は?』 留美は内情を分かってはいたが、知らないフリをしなければならないのでワザと聞く。 「留美、おはよう。うん…最悪な事があった。けど、留美が電話かけて来てくれたから…もうどうでもいいやって思える。」準基も留美の前では素直になろうと決めた。けれどもプロポーズは20キロ近く痩せてからと決めていた。 『何?それ?ふふ。ねぇ準基、今日の夜また飲み会やろ?明日土曜日で休みだし!昨日も言ったけどお酒買って来てね。』 「やっぱり酒?!お前ほんっとに酒好きだな?」 『準基と一緒に晩酌するからお酒が美味しいし、楽しいの!』 「わかったよ。地酒買って帰るから、ツマミ用意しておいてくれよ。」 『うん!じゃあ、そろそろ準備するから。』 「気をつけて行けよ?じゃあ。また後で。」 『うん、またあとね!』  電話を切り、準基はとても幸せな気持ちになった。  結局、自分は幼い頃から留美が好きなんだと痛感する。愛莉の事は一時の気の迷いだと確信した。 その準基の幸せそうな顔を大河と大地が頬杖をついて、ニコニコして見ていた。 「っわぁ!!何だよ!?お前ら?!いつから起きていたんだよ!?」 準基は真っ赤になって慌てふためく。 「留美が電話かけてくれたから、もうどうでもいいやって思える…ってとこです!」 朝から大地が爆音ヴォイスで言った。 「殆ど聞いてるじゃんか!?」 『はい。』 恥ずかしくて仕方ないので、準基は急いで顔を洗い、着替えて準備を始める。 そして、朝から軽く腹筋を始めた。 「先輩…。」 大地が感動した顔をして準基を見つめる。 「あのさ…俺、留美にプロポーズしたいんだわ。20キロ落としたらって思っているから、大地、大河頼むな。」 『はい!!俺らに任せてください!!』  大地は早速、体をまともにうごしていかなかった準基に軽く出来る運動から教え始めた。  大河はその他のサポートを請け負い、運動後は朝食のバイキングでどれを食べたら筋肉に効くか?脂肪燃焼効果があるかなど説明しながら、準基に栄養指導をした。 「先輩!地酒ってこれですか?!」 ホテルを出る前にお土産コーナーで準基達は地酒を探していた。 「谷川岳超辛純米…辛いのは飲みづらいかも…。」 「あ、準基さん。口当たりまろやかでフルーティーな香りって。いいんじゃないですか?」 大河が箱の側面に書いてある地酒の説明部分を読んで聞かせる。 「あー、そうなんだ。うわぁ悩むなぁ。」 準基が数ある地酒を眺めて棚の前で悩みまくっていると課長達が来だし何故そんなに悩むんだ?と尋ね、大地が「準基先輩が大切な人へのお土産で悩んでるんです!!」とニコニコして言い、「お前彼女いるんか!?業務のやつらの話はマジか!?」と騒ぎ出した。  そして、観光名所を幾つか周り、夕方18時過ぎにやっと会社の前へ到着した。 「忘れ物ない様に確認してくださーい!」 準基は社員達に声をかけて何とか二日間の役目を終えた。 「鈴木君、お疲れ様。あと、これらを片付けて帰れるね?」  課長に確認され、大地と大河と片付けていると、駐車場の一角で男性社員や、そこに居た女性社員達が騒ついていた。  準基は気になり声がする方を見ると、見た事がある黒のヴェゼルが止まっており、ロングヘアの遠目から見ても綺麗な女性が準基の方へ歩いて来る。 「留美?」 「準基!!おかえりっ!!」 留美は準基を確認して走り出した。 「留美!待てっ!そんな踵のある靴で!転ぶから!危ないから!」 と言っているうちに留美が抱きついて来た。 「ねぇ、びっくりした?!」 「…心臓止まりそう…」 「え?困る。」 「冗談だよ。どうしたんだよ?寂しくて待てなくて迎えに来たのか?」 準基は笑いながら聞き、留美の頭を撫でる。 「…違うわよ。と、言いたい所だけど、まぁ半分当たってるのもある……かな?実は大地君と大河君に頼まれたのよ。準基が二日酔いで多分電車で帰るのしんどいだろうからって。だから、心配でお迎えに来たの!」 留美はとても嬉しそうに話し、準基も嬉しくて笑顔になる。そして愛おしげに留美の髪を撫でる。  その様子を見ていた周りの従業員達は、「鈴木のあんな顔初めて見た!」や「あんっなに美人の彼女居りゃ、そりゃ会社でインキャだ言われても平気だよな!」や「彼女さん…凄い。本当に心の綺麗な人なんだな。」と称賛の声まで上がっていた。  留美が3人の荷物を車に乗せている間に準基達は備品を片付けてやっと帰宅出来ることになった。 「先輩!お腹空いた!!」 大地は車に乗った途端、晩御飯を食べて帰ろうと提案する。 「いいね!留美さん!準基さん!どこへ食べに行きますか!?」 大河も嬉しくて珍しくワクワクしている。 「そうだな。留美、どこかいい所知ってるか?」 「そうね…月島でもんじゃは?!」 留美が言うと「留美…酒が欲しくなるからやめよ…」と準基が止め、結局大地が肉を食べたいと言い焼肉になった。  食べるだけ食べて、大地と大河を家まで送り、留美は準基と少しだけドライブへ出かけた。 横浜のみなとみらい迄来て夜景を楽しむ。 「準基、辛かったら泣いていいよ?」 歩いていると留美が急に言い出し、準基は目を見開いた。 「…聞いた?」 「うん。」 留美は準基に抱きつく。 「留美…。」 「私、準基に酷い事言ったあの小娘は絶対に許せない。あなたの会社であの子を見かけた時に殴ってやろうかと思ったけど、準基が困るから我慢した。」 留美は笑って言いながら準基の胸に自分の顔を擦りつける。 「留美、顔上げて。」 「ん?」 「留美、好きだよ。」 真っ直ぐ見つめ、後悔したくないと留美に気持ちを打ち明けた。 「…知ってる。」 準基の腕の中で留美は恥ずかしそうに笑う。 「…だよな…。」 真っ赤になっている準基を見て留美は小さく頷く。 「準基が言ってくれるの、ずっと待ってた。ありがとう。」 「もっと早く言えていたら良かったんだけど…ごめんな。ヘタレで…留美に甘えきってた。」 「ううん。沢山の時間を準基と過ごせているから幸せだよ。」 「…でも、俺は全ての初めてをちゃんとお前の為に取っておいたのに…お前は…」 「え?!重っ!」 「重っ!って何だよ?!」 「ごめん……でも、準基とこうなれるって知らなかったから…私の初めてはかなりはるか昔に…」 「ごめん…言わなくていい…。」 ショック受けるから言わないでと準基は留美に頼んだ。 「ふふ。準基、だいすき!」 留美が頬にキスをすると、準基は留美の頬を掌で撫で、キスをした。 「留美…愛してる。」 翌日…AM7:00 「先輩!おはよう御座います!!起きてください!!」  大地は朝からランニングスーツを着込み、大河は自転車で、留美もジャージ姿で準基の自宅へ現れた。  昨夜準基は留美との初めてを経験し、気持ち良く眠っていた所に叩き起こされ、更には準基の隣で幸せそうに眠っていたはずの留美がバッチリ運動スタイルで大地達と並んでいた。 「留美…いつの間に起きたんだ?」 「いつの間にかよ。二人から準基のダイエットに協力してと言われて居るから。さぁ!行くわよ!早くジャージでもスウェットでもいいから着替えて!!」 留美の鶴の一声に準基は急いで支度をし、外に出て来た。
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