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ダイエットで運を掴む
「…っふ、…っふ…なぁ、おい……大地、る、留美…大河…ちよっと休憩しようよ。」
準基は軽くランニングしているだけで体型のせいもかなりあり息が酷く上がる。
三人、留美、大地、大河は元々運動するのは好きで軽いランニングくらいどうってことはない。
「準基…その身を削るのは凄く大変よね…。20年分の…自堕落…。」
留美は憐れみの目で見つめる。
「…21年前…やけ食いなんかするんじゃなかった…。」
アホみたいに沢山食べ、食べ癖がついた挙句、酒を飲む様になれば晩酌と称して缶ビールを毎晩最低三本は飲み続けた事を酷く後悔する。
そしてお腹周りの贅肉は加速して付いていた。
「先輩、次は市の体育館のトレーニングジムで筋力トレーニングです。留美さんはエアロバイクとかランニングマシンで流していてくださいね!」
大地はニコニコっとして留美に話しかける。
「大地…お前、留美に甘いよな…。」
準基は不公平だと訴える。
「先輩…目標…」
大地はチラッと横目で見て小声で話すと準基は黙々と走り出した。
走って市の体育館へ着き、使用料を支払い四人で中へ入り説明を一通り聞き、準基は大地に聞きながら無理の無い範囲でトレーニングを始める。
「やっぱり先輩、スポーツやっていたから飲み込みいいっすね!」
サッカー部時代もそれなりに筋トレなどのメニューをこなしていた。とりあえずインナーマッスルの復活からだな…と準基は溜息を吐く。
留美を見ると音楽を聴きながらランニングマシンでウォーキングをしている。
その出立ちも小慣れた感じがあり、普段から自分が知らない所で努力しているんだな…と初めて知った。自分の知らない留美がまだ沢山あるんだな…と感じ見ていると、周りの男共が留美を見ている事に気付く。
「大地…大河…周りの奴等が留美をめちゃ見てるんだが…。」
準基は眉間に皺が寄りだす。
「先輩…留美さんは顔は綺麗だし、スタイルいいし、肌綺麗だし、色白だし。注目されないわけがないですよね。おまけに性格までとてもいい。」大地はうんうんと頷く。
「準基さんも、留美さんの隣に居ても見劣りしない様に頑張ってダイエットしましょう!元はめちゃくちゃ男前なんですから。」
大河にも説得され、周りの男達にイライラしながら少しでも留美に相応しい男になる様にウェイトトレーニングに励んだ。
「準基、大丈夫?無理してない?ちゃんと休憩しなきゃダメよ?」
ランニングマシンで軽く流し終えた留美が突然準基の所へ来て、準基の膝の上にちょこんと座ると、周りの男達は『えっ!?!?』と一斉に二人に注目し、その異様な状況に全員顔色が変わった。
ジムの中で一番のぽっちゃり…イヤ、デブの男の膝の上に美女が座るという何とも奇妙な光景を見ている様な顔をしている。
「留美、周りが見てるぞ。…俺を恨みがましくな…。」
準基は困った顔をしながら笑って、留美の髪をさらさらっと触る。
「あら、見させておけば?だって、あなたは私のダーリンだもん。膝の上くらい座るわよ。」と留美は澄ました顔をして周りの男共からそっぽを向いた。
そして運動をひとしきりして昼になり、準基と留美は大地、大河と別れ、二人でまた散歩しながら公園の景色を楽しんでいると美味しそうなおにぎりを売っているキッチンカーを見つけた。
「ねぇ!準基見て!おにぎり屋さん!これ買って公園で一緒に食べようよ!」
嬉しそうにショーケースのおにぎりを見て、今にもヨダレを垂らしそうな留美の顔を見て準基は吹き出す。
「留美…ヨダレが…」
可笑しくてお腹を押さえて笑い出す。
「もぉ!そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
「だって…何か、ポチみたいで…。」
「え?!犬?!」
「ははは。よし、ポチ。おにぎり買って公園でランチでもするか。」
準基は店員に留美の好きな具のおにぎりと自分の好きな具のおにぎりを頼み、付け合わせを卵焼きと鶏胸肉の唐揚げを頼んだ。
おにぎりを買って公園内の東屋を見つけベンチに座り青空を見ながら食べ始めた。
「いただきまぁーす!」
留美が大きな口で一口目を齧り付くと準基はまた笑う。
「ねえ、何でそんなに笑うの?私、変かな?」
留美は首を傾げる。
「違う、楽しいから。留美と居て、小さな事でも二人なら凄く楽しいと思える。本当に好きな人となら何していても楽しいんだな…と、思うんだ。今までも楽しかったけど…まぁ留美が彼氏作らなくなってからだけどさ。」
本当はヤキモチ妬けて仕方なかったと白状する。
「私もね…彼氏が居てもいつも心の何処かに準基が居て…彼氏出来ても直ぐ別れたりを繰り返してた。だから25歳の誕生日を機会に準基に集中しようって…それ以来彼氏を作るのをやめた。…準基じゃないとダメだったのよね。結局。」
「彼氏居るのに俺の事考えていたなんて悪い女だな。」
そう言いながら準基は留美のおでこにキスを落とす。
「だって・・・準基が好きだけど自信が無かったから・・・準基が私の事好きだなんて思ってもみなかったから・・・。」
「ほんとに、バカだよな。俺ら。」
顔を見合わせ思わず笑う。
「ほんとね。一軍女子にビビらずに堂々と準基は私のモノ!」って宣言すれば良かった。
「やっぱり、それもあったんだな。」
「うん。あの頃の私は…二軍だったし…今はトップクラスの美女ですけど?だから、準基と夜にお互いの部屋行き来して遊んでる時や勉強している時は凄く嬉しくて、楽しくて幸せだったの。準基を独り占めしてる気分だった。」
「これからはもっと独り占め出来るな。」
「あなたが元の姿に戻ったら…そこらの女共が放っておかないわよ?きっと。」
「でも留美だけは俺がこんな姿になってもずっと大切にしてくれたじゃん?」
「うん。だってどんな姿でも準基は準基だから。見た目なんて関係ない。」
「ありがとう。だから留美を裏切ることは絶対しない。誓えるよ。本当に留美が幼馴染で良かった。」
「ほんと、お父さんに感謝しなくちゃ。今の家買ってくれた事に。」
「ほんとだな!俺もだわ、じゃあ。康生に感謝だな。」
取り留めのない話をして二人の午後はゆっくり過ぎて行った。
準基がダイエットを始めて二週間が経った。
必要が無い余分な物や油物を食べるのを控える様になり、体重は数キロするりと落ちた。
準基は大河に食事の栄養管理の仕方、大地には筋トレと年齢に見合った有酸素運動のアドバイスをもらい毎日コツコツ続け、内臓脂肪も多いのでそこに特化したサプリメント、プロテインなども摂取して順調にダイエットに励む様になっていた。
「鈴木君、最近少し痩せたかい?」
仕事をしていると痩せた事に気付いた上司から声をかけられた。
「あ…はい。健康の為にやっぱり痩せていた頃の様に戻そうと思って。」
準基は少し恥ずかしそうに笑いながら言う。
「そうか、彼女が居るからだよね。周りの奴等も言ってたよ。鈴木君が皆に何言われても平気なのはあの綺麗な彼女がいつも支えているからだろうって。」
「はは…そうかもしれないです。小さい時からいつも一緒だったんで。」
課長は「そうか、そうか。」と笑いながら去って行った。
「先輩!」
仕事に集中していると管理部フロアへ大地が何やら慌てて走って来た。
「何だよ?大地。お前営業は?」
「そんなことより!先輩!留美さん来てる!」
「はぁ?!何で?!」
大地の話では新しい社用車を数台買い換える話が営業部で出ており、留美の勤める企業の販売部の部長と準基の上司が同級生でその縁で…と、なり、そこへ何故か留美も居り、会議室へ入って行ったと大地がわざわざ伝えに来た。
「大地、大河は?」
「総務部に…」
「ちょっと総務へ行ってくる。」
「ちょっ!先輩!待ってよ!」
準基は総務部へ走って行き、大地は後を追いかけた。
「大河!」
「あ!準基さん!どうしたんですか?」
大河は大地まで一緒に走って来て、「何?何?楽しい事?」とワクワクして聞いて来た。
「大河、総務部の女の子、もう客にお茶出した?」
「え?多分今淹れてる…」
「俺と大地が持って行く。」
「は?!何で!?」
「大河見てないの?社用車の話で留美さん来てたよ?」
大地が総務部のくせに知らないのかよ?と悪態をつく。
「そうなんだぁ!…俺も行く。」
三人は仕事放置でお茶を淹れていた女性社員からお盆ごと奪い留美が居る会議室へ向かった。
"コンコン"
「はい、どうぞ。」
営業部の部長が返事をし、男3人で会議室へ入って来た。
「……おい…何故お前ら三人が…?」
部長は唖然として固まり三人をポカンと眺める。
「やだ…準基、大地君、大河君。何してんのよ。」
留美はお茶汲みボーイズ?三人を見て吹き出して笑い出す。
「倉本君、知り合いかい?」
留美の上司が不思議そうな顔をして質問する。
「あ、はい。一番前のぽっちゃりさんは私の幼馴染で彼氏の鈴木準基、2番目は準基さんの後輩の金燈大地君、3番目も準基さんの後輩で南大河君です。」
笑いながら話すと、留美の上司は「何十年か振りに彼氏かい?!」と笑って言い、留美は「失礼ね!!」と上司を叱り、準基の上司も留美に「君が噂の鈴木君の美しい彼女か。」と笑っていたが、上司は三人に「倉本さんと話したいのは分かるが、仕事は?」と尋ねられ、苦笑いしながらそそくさと「失礼しました。」と、去って行った。去り際に留美は「準基、お昼一緒に食べよ?」と声をかけ、準基もニコッと頷いた。
「倉本君…僕は?」
留美の上司はにこぉと留美を見たが…「私、彼とお昼食べたいんで、先に会社へお戻りになるか、そちらの部長様とランチしてください。」ときっぱり言って断った。
食堂
「留美…来るなら一言言ってくれよ…。」
準基は言ってくれれば雰囲気の良い所を予約したのに…とガッカリする。
「あら?だって仕事ですもの。それより、私ここの会社の社員食堂の味気に入ったわよ?」
留美は細い体に似つかわしくないガッツリ目のカツ丼を嬉しそうにもぐもぐと食べる。
「留美さん!カツ丼うまいっすよねー!」
大地は隣でカツ丼、ラーメン、コロッケを食べて留美に他におすすめはと話していた。
「でも、留美さんて貿易課じゃないんですか?そうやって準基さんから聞いてますけど?」
大河はねぇ?と準基の顔を見る。
「あら、聞いたの?ふふ。今日は担当の販売部の子がね、急遽超得意先に出向かなくちゃいけなくなって、皆んな忙しいから私がピンチヒッター。」そう言いながら留美はニコニコして笑う。
「留美さん、暇なんすか?」
大地が言うと準基はおしぼりで大地の頭を叩く。
「いでっ!?先輩!何でツッコミがどつくばっかなんすか!?」
大地は恒例の抗議だ。
「大地君、暇じゃないわよ。あんまり大きい声じゃ言えないけど…私、あの会社の貿易課の課長なの。」
『えっ!?』
三人は声を上げて驚き、準基は絶句だ。
「留美…俺聞いてない…。」
準基はダダ凹む。
「あー、準基…凹まないで。そうなるの分かっていたから…だから黙っていたんだけど、さっき営業課の部長さんに名刺も渡してるから…わかるのも直ぐだなっと思って今言った。」
留美は準基の手を握ってごめんね、黙ってて…と謝るが、準基は「わかった。留美、俺も役職目指す。」と急に言い出した。
『はぃ?!?』
大地と大河はインキャで今まで過ごしていた準基にそれは無謀だろ?!と言ったが、準基の決意は固かった。
「俺はダイエットも成功させて、役職にもなる!絶対なってやる!!」
準基は人生の目標が増えたと言い、昼からもやる気全開で仕事に臨んだ。
「おい、鈴木は急にどうした?何か…物凄いやる気が伝わってくるな…。」
課長が他の従業員に聞く。
「あー…何か、今日彼女さんが自動車会社の部長さんと仕事の打ち合わせで丁度来ていたらしくて…で、彼女さんが実は…その会社の貿易課の課長さんだったらしくて…それで鈴木さん、ダイエットも成功させて、役職にも絶対なるって張り切り出したそうです。総務部の南君と営業の金燈くんの話だと…」
従業員達は皆んなインキャから卒業できるならいいんじゃないか?と話していた。
課長はそうか…と言い、あっ…と思いついた様に準基を会議室へ呼んだ。
「鈴木君、まぁ座りなさい。」
準基は促され椅子に座る。
「あの…何かありましたでしょうか?」
準基は仕事でミスが無かったか思い出していた。
「鈴木君、主任やらないか?」
課長は切り出す。
「え?!」
「いや、実は君の名前は何度も上がっていたんだが…やっぱり大人し過ぎると思っていたゆえ、女性社員達にケチョンケチョンに言われているのを上の役職者達は見ていたからね。あの状態で役職つけても…となっていたんだ。」
準基はやっぱり太っていても、本当の姿を、性格を偽っていてもいい事ないな…と改めて思う。
「そうだったんですか。」
「今の…これからの君なら大丈夫そうだと思ったから。鈴木、やるか?」
「はい。是非!やらせていただきます。」
転がって来たチャンスを掴む為力強く返事をした。
「じゃあ、決まりだ。来月一日付けで管理部主任だ。その次は係長、課長、そして部長。専務…年齢的にあまり時間は無いが頑張りなさい。君なら出来るだろう。経理の課長も管理能力はダントツに高いと褒めていたよ。」
課長はそう言うと、今日からそれ相応の仕事を投げて行くから頼むなと言い、二人は会議室を後にした。
そして昼からは本当に主任としての仕事や係長がこなしている仕事も覚える為にどっさりと資料を渡され、一時間残業で何とか終えた。
「先輩!ジム行きましょう!」
大地と大河が仕事が終わったのを見計らって管理部まで迎えに来た。
タイムカードを通し、三人で会社を出る。
「先輩、留美さんは?」
準基はスマホを見ると、今日の訪問に関して本来の担当者に報告と、数件外国企業とのやり取りがあるので帰りが遅くなるとメールが入っていた。
車で終わる頃に迎えに行くか?と聞いたが、そんな事もあろうかと車で出社しているから大丈夫だと返って来た。
「さすが、抜け目ないですね。留美さん。」
大河は三人でウェイトトレーニングを頑張ろう!と気合を入れる。
「年末の為にちょっと痩せておかないといけないですもんね!先輩!忘年会もあるし!」
「あー…またどこでやるか考えなきゃいけないのか…」準基は主任の仕事にプラスだなとため息を吐く。
「今年は僕らも一緒に考えますよ。」
「ありがとう、大河。」
忘年会の会場はどこにしようか話しながら三人でジムへ向かった。
三人がジムで汗を流している頃、留美は当日の報告書や代理で行った訪問の報告書を営業課の部下に引き継ぎする為の報告書を作成していた。
「あー…目が痛い…。乾く。肩凝る…。」
疲れて天井を仰いで居ると、上から覗き込む同僚の姿が見えた。
「倉本、お疲れ。まだ報告書書いてんのかよ?」
同僚は留美のオデコにチロルチョコを乗せて食べろと促す。
「ありがと。てか沢木もまだ残ってたんだ。」
「ええ。販売部のエリートですから。」
「エリートなら残業無しで定時で帰りなさいよ。」
「ほんとに相変わらず痛い所突くよな、倉本は。」
沢木諒太。38歳。留美の同期で同会社の販売部のエース従業員。何故か独身。入社当時から留美が好きだ。全く相手にされず辛い所だが、アラフォーになった昨今も諦めてはいない。
諒太と話していると留美のスマホの通知音が鳴った。
「あ、準基からだ。」
留美が嬉しそうメールを開く姿を見て、諒太は心がチクッとする。
頬を赤らめ、嬉しそうに返信しているのを目の前に見て、溜息が出てくる。
「そう言えば…倉本、彼氏…出来たの?」
「え?」
「昼間部長から聞いた。倉本が何十年振りかに彼氏が出来たって。しかも今日の訪問先に居たって聞いてさ。」
探りを入れようと諒太は留美の顔を覗き込むと留美はニタァっと笑い嬉しそうに話し始め、諒太は聞くんじゃ無かったと後悔し始める。
「ああ、うん。そう彼氏居るよ。幼馴染なの。私も行く事になってから何処へ訪問するか聞いてびっくりしちゃって。あ、でね幼馴染とはお互いずっと好きだったんだけど…お互いがお互いを失う事が怖くて気持ちが言えなかった。ずっと友達以上恋人未満な感じでいたの。でも、これじゃいけないって…お互い勇気出して、気持ちを伝え合って…付き合う様になった。だからこんな年齢だけど両思いだった事が嬉しくて。あとは時期を見て彼と結婚の話ししようかなって思ってる。」
留美は満面の笑みで惚気全開で諒太に話す。
「そっか。また紹介してよ。」
「うん!!あ…でも準基ヤキモチ妬きだからな…。」
「…愛されてるんだな。」
「ふふ。うん。ほんと、ヤキモチ妬きの所も大好きなの。私も準基が本当に大好きで本当に愛してるの。彼が居ない生活なんて本当に考えられない。」
恥ずかしいと言って真っ赤になり顔を覆い珍しく女子女子している留美に諒太は若干引き気味になる。
「はい、はい。ご馳走様。さぁ、早く仕上げてさっさと帰れよ。彼氏待ってるんじゃない?」
「うん。でも家隣だし。窓から彼の部屋へ入れるから大丈夫。寝ていてもきっと鍵開けておいてくれるから、いつもそうだし。寝る時に彼のベッドに潜り込む。」
留美が嬉しそうに言うと、そんな情報要らんわと諒太は笑い、販売部へ戻って行った。
留美は一分でも早く帰りたい気持ちで報告書を急いで作り仕上げに入った。
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