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「先輩、留美さん残業なんですね?」
大地は会いたかったと言いながら鉄アレイ両手に筋トレをする。
「ねえ、準基さん。思ったんだけど…留美さんあれだけ美人なら…会社に留美さんの事好きなヤローとか居るんじゃないですか?」
大河がポロっと言った。
そうなのだ。準基の心配ごとの一つがそれだ。
付き合おうと言ってきたバツイチの上司の他に、前に沢木という奴の話が出た事があり、聞いているだけで明らかに留美に好意を持っているとしか思えないヤローが居ると常々思っていた。正直毎日が気が気では無かったが留美自身がその男に興味が無さそうなのがせめてもの救いだった。
「絶対留美は誰にも渡さないし、離さない。俺も留美に相応しい男になるから。」
「あー…やっぱり居るんですね。まぁそりゃ居るでしょうね。あれだけ美人なら。性格もさっぱりしていて、人に嫌な事言ったりしたりしないですもんね。」
「そうなんだよな。留美は皆んなに平等に接するから…それで好かれるからさ。常に心配はある。」
「でも、それが留美さんのいいところです!!ね!先輩!!」
大地が明るく言い、準基は笑って頷き、留美に早く会いたいと思いながら筋トレに勤しんだ。
「あー…やっと終わった…。」
留美は書類作成をやっと終えて帰宅する事にした。
(あー…23:50かぁ。準基起きてるかな…。)
準基に電話すると直ぐに出た。
『留美!今終わったのかよ!?』
心配していたと言い、留美の声を聞き準基はほっとしていた。
「うん、ごめんね。今日はもう夜会えないね。準基も寝不足になっちゃうし。明日は昼前から出勤するから朝はお見送り出来ると思う。」
『大丈夫。鍵、開けておくから気をつけて早く帰って来いよ。寝て待ってるから。それにベッドも留美の為にダブルに変えたんだから、毎日一緒に寝てくれないと意味ないだろ?』
「そうだね!急いで帰る。じゃ、またあとね!」
留美は電話を切り、急いで会社を出る準備を始めた。
「倉本!」
突然呼ばれ、びっくりして振り返ると、諒太が入口の所に立って居た。
「何?沢木、あんたも今終わったの?!」
「あのなぁ、俺も販売部の課長ですぅ。今日は部下の超お得意様の商談で色々と書類とかの作成と確認があったんですぅ。」
ふざけて笑いながら諒太は話す。
「あー…そうだったわね。課長だったわね。すっかり忘れてた。じゃあ私は帰るから。」
「俺も帰りますぅ。駐車場までご一緒させていただいても大丈夫ですか?」
留美はえー?と眉間に皺を寄せて言いながら諒太と駐車場へ向かった。
自宅に着き、留美はシャワーを浴び、寝る準備をして自分の部屋窓から準基の部屋へ入ると、準基は既に眠っていた。ダイエットの為に日常的に運動をし、前と比べると早く寝付く様になった。
留美と付き合う様になり、二人で眠る為のベッドを新調する際にマットレスも二人で選んで体に良さげなものにしたのもあるのか、よく眠っていた。
そっと準基の隣に入ると、準基が目を覚まし留美の腕を引く。
「お帰り。」と、言うと同時にキスをして来て、ぎゅっと抱きしめられる。
「ごめんなさい。遅くなって…さすがに報告書作成が一気に来ると…遅くなるから。」
理由を話している途中で準基が留美の耳元に顔を近づけて来た。
「大丈夫。…留美、いい?」
そのまま耳に、首筋に胸元にキスを落とす。
「え?でも準基寝不足になっちゃう…。」
「大丈夫。俺が留美と…したいの。」
準基は留美に覆いかぶさり、笑顔で留美を見ると、留美も笑顔で準基に抱きつきキスをした。
6:00
目覚ましが鳴り、準基は目をうっすら開けた。
留美は隣で気持ち良さげに眠っていた。
昨夜は留美を思い切り抱き、どれほど抱き合っていたか分からない程お互い疲れて服も身につけずそのまま眠ってしまった。
朝陽に留美の色白の肌がよく見え、美しさを際立たせる。昨夜戻りが遅かった留美は目覚ましの音にも気付かず熟睡していた。
先に起き、YouTubeを見ながら軽く運動をする。
「準基……おはよ……。」
留美が半分寝ぼけて挨拶してくる。準基は留美の側へ行き、「おはよ。とりあえず風邪ひくといけないから下着とパジャマ…着なよ。」と言うと、留美は布団に顔を半分隠して真っ赤になっていた。
「どうしたの?」
「…やだ…おばさんや麻央ちゃんが突然入って来なくて良かった…こんな姿見たら、唖然茫然とするわよね。」
「ん?ごめんって直ぐ扉閉めるよ。そもそも早く留美と引っ付けって言われていたから。」
「…そうか。私もおばさんにこれからも準基の側に居てやってって…言われてた。」
「え?!そうだったんだ。」
「大丈夫って言ったよ。準基の事大好きだからっておばさんには言ったの。」
「…え?」
準基は真っ赤になり、留美を抱きしめキスをする。
「準基の事、愛してるもん。」
「ありがとう、留美。あー、もう会社行きたくねーなー。このまま留美とこうしてたい。」
「…ダメよ。行きなさい。役職なりたいんでしょ?」
急に留美は厳しい態度になり、準基をじっと見た。
「はい…行きます。支度します。留美、朝ご飯食べよう。おいで。」
準基は留美の手を引き、下のキッチンへ下りて行った。
キッチンではカナオが家族分の朝ご飯を急いで作っていた。
「母さん、父さんおはよう。」
「おばさん、おじさんおはよう御座います。」
留美が挨拶し、両親は二人を見ると準基と手を繋いで居るのを確認した。
「お父さん、やっと長年の願いが…」
「準基、留美ちゃん。早く孫を…」
と、康生が言うと準基は父親の頭を新聞で叩く。
「朝から何言っとんのじゃ!!」
準基は真っ赤になって父親を朝から叱りつける。
「準基…おじさんにひどい事しないで…おじさん、おばさん、待たせてごめんね。見ての通り準基の恋人になったからね。あと…赤ちゃんは…授かり物だから……ね?」
留美も恥ずかしくなって来て準基の顔を見ると、準基も既に真っ赤になって朝から変な汗が出るわ!と父親に怒っていた。
「あー、お兄ちゃん、留美ちゃんおはよ。あ、お兄ちゃんちょっとスリムになったじゃん。あ!そう言えば、二人とも昨夜は激しかったねぇ。まぁ、直ぐ寝れたからいいけど。」
突然麻央が挨拶と同時にそんな話を振ってくる。
準基はうちの家族はどいつもコイツも朝からアホかーっ!と叫び、留美は真っ赤になり俯き、準基とするのは自分の部屋かこの家族たちが出掛けている時にしようと思った…。
「じゃあ、留美。ちょっと早いけど行くね。」
「うん。役職になりたいなら皆んなよりも早く行って業務準備とか予定の把握しなくちゃね。」
「うん。留美に相談する事もあると思う。」
「いつでもして?仕事中だと直ぐには返信出来ないけど。善処する。」
留美はそう言いながら抱きついてキスをする。準基も応える様にキスして抱きしめて、留美の顔を愛おしげに見つめる。
「愛してる。」
「準基、私も愛してる。気をつけてね。あ、今日定時?」
「うーん…?終わったら電話する。留美は?」
「私は10時から出て…フレックス使うから…7時までか…」
留美は昨夜が遅かったから仕方ないと言い、帰る時に電話すると伝え、準基を送り出した。
駅を歩いているとクリスマス前という事もあり、街の景色がクリスマスカラーに染まっている事に気付く。
(ああ、そっか。クリスマスだ…留美にプレゼント、欲しい物聞かなくちゃな。)
今まではクリぼっち同士などとふざけていたが、今年からは留美ときちんとした形になり、イベント事が余計に楽しみになった。
アクセサリー店のショーケースにはペアリングが飾られており、準基はいいな…と思った。
(第一候補はペアリングだな。)
準基はウキウキして会社へ向かった。
会社へ到着すると未だ一般社員は出社しておらず、主任以上の役職者たちが出社していた。
「おはようございます。」
挨拶して入ると部長が気付き「おはよう、鈴木君。主任をやってくれることになったんだってね。」と笑顔で話しかけて来た。
「はい。未だ至らない所ばかりですが、戦力になれる様に頑張りますのでお願いします。」
準基は部長に挨拶し自分のデスクへ行くと机の上に山の様な資料が乗っていた。係長からメモが置いてあり、『これは全部こなせるようになると後の自分の為になる。』とあった。
「……は、ははははは。」笑うしかない状態だったが、情けない自分を返上するために書類を読みだした。
従業員が全員出社し、朝礼が始まると準基は前に出て来る様に指示され、前へ出た。部長から準基が1月より主任へ昇格する事が発表され、他の社員たちはザワついた。
朝礼が終わると在庫の管理方法を若手の従業員に教える為に地下の在庫室へ向かった。
「鈴木さん、とうとう主任ですね。良かったですね。」
陶山和樹、28歳。管理部では大人しいタイプの好青年。今回準基の昇格にあたり、準基が他の仕事をせねばならず、和樹が在庫管理を任される事になった。
「うん。長かったけどね。ずっと太っていて自信なくて…女性従業員にバカにされて。社員旅行の時にさ…コケ下ろされて。でもそのおかげで本当に自分にとって大切な女性と、大切な事、自分がどうして行きたいのかというビジョンが明確になった。ある意味いい経験だった。感謝はしていないけどな。あくまできっかけだから。」
準基の笑顔は清々しかった。
留美も時間になり出社すると、机の上に缶コーヒーが置いてあった。
「ねぇ、これ…誰から?」
後輩に確認したがわからないと言われ、お礼のしようが無いと思っていると仲良し同期の山田由真が後ろから膝カックンをして来た。
「ひゃあ!!…ちょっと!由真!やめてよ!」
「うひゃひゃひゃ、よし!留美いじり終了。」
「はぁ?」
「ごめん、ごめん。おはよ。そのコーヒーは…君の王子から。」
由真はイヒヒと笑い留美に教える。
「はぁ?王子なんてここに居ないわよ。昨日訪問した会社には居ますけど?」
「うわ!沢木終了じゃん…。」
「…あのねぇ…沢木の事は1ミリも好きになった事ないし、そういう目でヤツを見た事ない。」
「うわ!じゃあ昨日部長達が言ってたのマジか!?彼氏出来たって話。」
「ええ。幼馴染の男性とこの度やっとお互いの気持ちを伝えて両思いになりまして、近いうちに結婚よ…。まだプロポーズされてないけど…。」
「あー、準基さんだっけ?ぽっちゃりだけど、高校の頃の写真は韓国俳優の金準基そっくりな人!」
「うん!!そう!今一生懸命ダイエットしてるの!私はぽっちゃりの準基も痩せていてカッコいい準基もどっちも大好きだから、どっちでも良いんだけどね!」
留美は朝からたっぷりノロケ、にっこにこして由真をドン引かせた。
「鬼の倉本が…骨抜きね…。」
「誰が鬼よ?」
「後輩連中からしたらあんたは怖い課長よ。」
「失礼ね、こんな美人捕まえて。」
「あんた…自分で言うから恐ろしいわ。」
「事実を述べた迄。両親には感謝してます。綺麗な顔に生んでくれた事。」
「…まぁ、そこは感謝すべきとこよね。あ、で、沢木が昨日はお疲れって置いてった。」
「…毒入ってないでしょうね…?」
「あんた…沢木の缶コーヒーくらい受け取ってやりなよ。」
「…私、ブラック派なんだけど…。飲めない事無いけど…さ。」
留美はせっかくもらったからと封を開けて飲んだ。
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