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ライバル
「鈴木、先週話した社用車の件だけど、今日最後の確認で先方の部長と販売部の課長が来てるから、お前も勉強で同席してくれ。」
準基は課長からそう指示を受け、頼まれた書類を全て持って会議室へ向かった。
「失礼します。」
準基は部屋へ入ると書類を置き、会議室の隅の方へ座る。
暫くして、留美の勤め先企業の販売部の部長と課長が来て新しく頼む社用車について説明と金額の確認を受ける。
準基は見ているだけだったが、必要な事や大切だと感じた事はノートに書き留めていた。
そして書いているとふと視線を感じる。見回すと販売部の課長、沢木諒太が準基を見ていた。
(そう言えば…留美が前に沢木って奴がって言ってたな…アイツか?)
準基は留美に聞いている話を思い出したが、今は仕事に集中した。
打ち合わせも無事に終わり、管理部へ戻ろうとすると諒太に声をかけられた。
「すみません!鈴木さん!鈴木準基さん!」
諒太は走って準基の元へと来た。
「あの、何か?」
準基は構える。
「あ、倉本、倉本留美さんの彼氏さんですよね?」
諒太が確認して来た。
「はい。留美は僕の彼女ですが…何か?」
「最近、留美さんに彼氏が出来たって社内で話題になっていたので。我が社の女王を落とした男はどんな男だって。そしたら、森の熊さんの様なぽやんとした穏やかそうな方だったので…正直期待はずれと言うか…あ、すみません失礼でしたね。では、社へ戻りますので失礼します。」
諒太はイヤミとも取れる言い方をして去り、その場に残された準基は暫く呆然として諒太の後ろ姿を見ていた。
「それ、戦線布告じゃないんすか?」
大地が目の前のハンバーグを口いっぱいにツッコミながら言った。
昼休憩時に準基は仲間集合で食堂で食事を摂って午前中あった事を話した。
「やっぱり…そう思うよな。」
準基は天を仰ぐ。
「準基さんのライバル…留美さんと同期の販売部の課長なんですね…。まぁでもライバルでもないか。留美さんは準基さんにベタ惚れだし。もうお二人とも結婚を意識してお付き合いしているし。」
大河は首を捻る。
「留美さんにその失礼な奴の事言わないと!」
大地はプンスカ怒っている。
「いや、大地いいよ。何か言う方が情け無い感じするし。多分あっちが何か留美に言うと思う。留美から何か聞かれると思うから。いいよ。」
準基はそう言って、食後の散歩へ行こうぜと二人を誘った。
留美は諒太が準基の会社へ出向いていたと由真から聞き、諒太を探していた。
販売部のフロアへ行くと諒太が留美の姿を見つけやって来た。
「俺を探していたのかい?女王様。」
「…何言ってんのよ?ねぇ、あちらとの契約は滞りなく終わった?」
留美は笑顔で聞き、諒太から無事に契約は済んだと教えてもらい、無事に売れて良かったと安堵した。
「倉本。」
「何?」
「お前、あんな男のどこがいいの?」
「は?」
「いや、あっちの会社の管理部の主任研修中の人で鈴木準基って人が居たんだけど、倉本が準基、準基って言っていたから思い出してさ。準基ってなかなか居ない名前だし。見たらデブだし、森のくまさんみたいな人だし。ちょっと期待外れだなって・・・思わず本人にも言っちゃった。」
諒太が笑いながら言い、留美は瞬間にキレて諒太の頬を思い切り引っ叩いた。
”パァーンっ!!”
「ってぇ…イキナリ何すんだよ!倉本!」
「あなたって、サイってー!!人の彼氏によくもそんな失礼な事!デブって・・・準基はね、心が綺麗で凄く優しくてとても素敵な人なの!あんたに侮辱される筋合いは無いわよ!!それに、準基はもとはプロサッカー選手候補だったのよ!だから昔は痩せていたし、サッカーやっていて目茶苦茶かっこよかったし!痩せたら韓国人人気俳優の金・準基にウリ二つなんだから!!」
留美は怒って販売課フロアで立ち尽くす諒太を置いて貿易課へ戻って行った。
「沢木、あんた頬どしたの?」
由真が通りかかり、諒太は事の顛末を話す。
「……嫌われたな…。じゃ、ご愁傷様。」
「おい!山田!何とかしてくれよ!」
「無理だわ。よりにもよって留美の小学生の頃から初恋の大切な思い人を…。」
「え?!マジ!?彼氏いた事無かったっけ?!居たよな!?」
「いつも心の片隅に準基さんが居たんだって。けど準基さんに自分なんか相手にしてもらえないと思っていたから告って来てくれた人と付き合ってただけみたいよ。あの子はずっと準基さんだけ。だからやっと両思い…てか、お互いずっと好きだったけどビビって言えなかっただけみたいね。」
諒太は由真に聞いて、留美に相当に嫌われた事を理解できた。
「…そんな…重い話知らんわ!!」
「まぁ、顔見る度に土下座して謝り続けるしかないわね。それでも留美は全ては許さないだろうけど。まあ30%程度はいつか許してもらえるでしょ?とにかく、当座は無理だからあまり留美の目の前に現れない様にしなさいよ。」
由真はそう言いながら行ってしまった。
諒太は暫く廊下で立ち尽くしていた。
留美はそのまま荷物を持ち、外回り行ってくると部下に伝言を残して準基の会社へ向かっていた。会社近くの公園に着き、準基へ電話する。
〜♪
「鈴木さん!電話鳴ってますよ!」
「あ!はい!ありがとう。」
準基は画面を見ると留美で急いでその場を離れる。
「留美、どうしたんだよ。」
『ごめんね、仕事中に。あの、沢木が失礼な事を…準基に言ったって聞いて…。』
「ああ。いいよ、気にしてない。アイツ留美の事好きだろ?腹が立ったんだろ?留美の彼氏が俺みたいなので。」
準基はそう言って笑う。
『準基は素敵だもん!私にはあなたが世界で一番素敵だもん!俺みたいなのとか言わないで!それに、今ダイエット頑張ってるじゃない!!私…私…』
留美は泣き出した。
「留美?!泣くな!!ん?今外か?」
『準基の会社のすぐ近くの公園…』
聞くや否や準基は「出掛けて来ます!!」と外へ飛び出した。
走って行くとベンチの所で留美がポロポロ涙を溢して座っていた。
「留美!!」
息が切れて呼吸が上がる。
「準基…汗と、呼吸がヤバい…。」
留美は泣きながら笑う。ハンドタオルを出して準基の汗を拭う。メガネを外すと頬の肉が少し落ちて、昔のカッコよかった頃の面影が少し出て来ていた。
「また痩せたね。何キロ落ちたの?」
「あー…余程要らんものばっかと油物ばっかり本当に食べていたみたいで、それを一切絶ったら10キロはすぐ落ちたよ。」
準基はそう言いながら留美の頭を撫でてぎゅっと抱きしめた。
「準基、ごめんね。今朝、私が行けば良かった。そしたら沢木に嫌な事言われなくて済んだのに。」
「いいんだよ。この21年でもう耐性ついてるし。それに、留美と自分自身の為に今ダイエットしているし。平気だよ。」
「うん、わかった…。準基…、もう少しぎゅってして?」
「え?あんまいちゃついてて会社の人に見られるとマズイんだけど…仕方ないなぁ。」
準基は笑顔でもう少し留美をキツく抱きしめた。
「あったかい…」
「そっちかよ!?」
留美はそうよーと、準基の掌で自分の頬を包み、「あったかーい!」と言って笑う。
「あ、留美、クリスマスプレゼント何がいい?」
準基は朝考えていた事を思い出し聞く。
「あー、そっか。もう直ぐクリスマスだぁ。」
「朝さ、駅ビルのアクセサリーの店のウィンドウにペアリングが並んでてさ…どうかな?」
準基は照れながら留美の顔を見ると、留美も嬉しそうな顔をして「うん!それがいい!!」と喜びどんなのにする?!とノリノリだ。
「じゃあ今度の休みに探しに行こう。」
「うん!嬉しい。準基とお揃いでつけられるなんて、夢みたい。」
「留美、本当に俺の事好きだな。」
「うん!!大好き!!」
少し話し、留美も落ち着きお互い会社へ戻った。
「留美!どこ行ってたのよ?」
由真が探していたと書類を持って来た。
留美は一通り目を通し確認すると課長印を押し由真に返す。
「どこって…準基のとこ。」
「は?!仕事中に?!」
「うん。もうしないわ。流石に沢木の事で申し訳なくて謝りに行ってきた。」
「同社で同期の課長として?彼女として?」
「どっちもね。」
由真は無表情で答える留美に舌を巻く。
「留美…沢木…」
「聞きたく無い。聞く気もない。」
「留美〜…仕事がやり辛くなるじゃん!」
「由真が私の代わりに販売課と貿易課のパイプして?今後はあなたにもやってもらわなきゃいけないから、いい機会だわ?」
留美はそう言いながら外国への車の輸出書類に不備がないか確認する。
留美は集中しだすと周りの声や音が耳に入らなくなる事もわかっており、由真はどれだけ言っても無理そうだと諦め席へ戻って行った。
18時になり、留美は部下に明日に回せる仕事は全て明日に回せと指示して全員帰社させ、留美も帰る事にした。
準基にメールをすると、もう少しで仕事が終わって大地と大河とスポーツジムへ行くと返信があった。留美も今日は参加すると言い、準基からも待ってると直ぐ返信が来た。
会社の正面玄関へ着くと諒太が待っていた。
「何?」
留美は不機嫌全開で諒太を睨む。
「ごめん。悪かった。」
「謝るのは私じゃないわよね?あなたが謝らなければいけないのは準基よ。勘違いしないで。」
留美はそう言って外へ出ようとすると諒太に腕を掴まれる。
「離してよ!」
振り払おうとするが諒太は留美の腕を離さない。
「倉本。俺、諦めないから。」
「は?!」
「倉本分かってるだろ?俺がお前のこと…」
「聞きたくない!!そもそも私はあなたなんて好きじゃない!そんな目で見た事もない!!準基が居るから!準基が大好きで愛しているから未来永劫あんたの事なんて好きになる事は絶対ない!!私は準基と結婚するの!!邪魔しないで!!」
留美は怒ってそう啖呵を切ると諒太はやっと腕を持つ手を緩め、留美は振り払って行ってしまった。
周りの社員達は「ダッサ…」と言いながら諒太を見て笑いながら過ぎ去って行く。
「沢木…あんた余計怒らせて…どうすんのよ?」
由真が一通りやり取りを見ていたと言い、留美のあんなに冷静さを失う程怒り狂っているのは初めて見たと言った。
「諦めつくかな?と思って…。無理っぽいけど・・・。」
「やり過ぎだわ。ありゃ留美明日会社来るだかわからんな…。リモートかもしれんけど。」
「…やっぱり…。貿易課の部長に謝っておくよ。女王怒らせましたって…。そんで女王の彼氏にも失礼な事ぶっこいて余計怒らせたって…。」
「……部長に勘弁してくれって泣かれるわよ。留美機嫌悪いとただでさえ厳しいのに、余計厳しくなるから…特に部長に…。」
「マジか…」
由真は飲み行くよと諒太を誘って会社を出た。
留美はイライラしながら歩いていた。
諒太の無礼に腹が立って仕方がない。何故あんなに従業員が居る前で辱めを受けなくちゃいけないのかが分からなかった。
「留美!どこ行くんだよ!」
準基が通り過ぎそうになる留美を呼び止めた。
準基の声がして留美は直ぐに振り返る。
普段なら、他の人に呼び止められても何かに集中していたり、イライラしていると全く耳に入らないが、準基だと直ぐに反応してしまう。
「あ…やだ。ちょっと考え事してた。良かった。準基が気付いてくれて。」
「また、何かあったのか?」
「あ…うん…。」
留美の戸惑う様子を見て、大地と大河に話をした。
「よし!留美さん!!ボーリング行きましょう!!」
大地と大河が元気づける様に留美に言い、準基もそうしようと言って四人でボーリングや色々なスポーツが出来る施設へ向かった。
とりあえず先ずは食事をしようと大河が言い、カレーハウスへ入った。
留美は諒太にされた事を三人に話すと三人は絶句し、大地は口から水が溢れていた。
「うわ…正面玄関の周りに退社する人らが居る前って…。」
大河はキツ〜と言いながら開いた口が塞がらないでいた。
「そうなの…あの時は腹が立って怒り狂って啖呵を切っていたけど…冷静になってくると明日会社へ行くのが…恥ずかしいって…。」
留美は顔を覆う。今までそんな失態をした事が無かったのでどうしたらいいのか分からないと嘆く。
「でも、それってぇ、先輩の事が大好きで愛してるから留美さんが理性を失うほど怒るって事だから…先輩からしたら喜んじゃう事案ですよね、本来は。」
大地はニヤニヤして言うと、準基は赤くなりながら「留美、気にせず行けよ。周りの事は無視しておけばいい。仕事をしっかりしていればそれくらいの事は大した事じゃない。な?」
準基は涙目の留美の背中を摩り、留美は顔を準基の肩に埋めた。
「しかし、販売課の課長はタチが悪いですね。留美さん困らせてばかりで。しかも正面玄関前で告白するって…テレビドラマの見過ぎですかね?」大河は呆れる。
「まぁ、俺からしてみれば二度と留美に近づくなと胸ぐら掴んでやりたい所だけどな。」
準基は呆れて言う。
「お!先輩カッコいいっすよ!それ!」
大地は笑顔で一人の女性を二人の男が取り合うあるあるシーンと言って喜ぶ。
準基は笑い事じゃないわと言いながら喜ぶ大地を呆れて見ていた。
「はい、まぁ飲みなさいな。」
由真はグラスに酒を注ぐ。
諒太はもぬけの殻状態で呆然としている。
「沢木…聞いてる?」
由真はメニューで頭を軽く叩いた。
「いでっ!叩くなよ…ただでさえ凹んでるのに…。あぁ俺は一体何故あんな場所であんな事を・・・。」
諒太は退社時間時の沢山の従業員が居る前で留美に公開告白などして、更に思い切り振られて・・・恥ずかしすぎて明日から会社へ行けないと頭を抱えた。
「ダサいわよね。両思いになれるならまだしも、ゲキ切れさせてしかも振られるっていう・・・。面白過ぎるわ、沢木・・。」
由真は酒が口から漏れそうな程に笑いを堪える。
「山田・・・励ますのか貶すのかどっちかにしてくれ。」
「じゃあ貶す。」
「味方じゃないのか?!」
「はぁ?何で味方しなくちゃならないのよ?留美はずっと鬼課長して来てやっと大好きな準基さんと両思いになったんだからそっちを応援するのが筋だと思うけど?」
「・・・なんだけどさ・・・相手がぽっちゃり・・・いやデブ男子だぞ。納得いくかよ?!」
「・・・あんたに関係ないよね?」
「関係ある!俺が好きだった女王が選んだ男があんな・・・スペック低そうなやつ・・・。」
「高校まではサッカーやっていて痩せていてかっこ良かったって留美言ってたし・・・プロテスト落ちちゃったらしくて、その後もうやけ食いで多分ああなったって留美が言ってたよ。」
「そんなへっぽこ余計に認めることは出来んわ!!」
諒太はなっとく行かないと言いながら由真にどんどん酒を飲まされていた。
「今日楽しかった。大地君と大河君に改めてお礼を言っておいてね。」
自宅へ戻り、準基と留美は眠る準備をしていた。
「留美、少しは元気になったか?」
「うん。ありがとう。・・・ねぇ、準基二人で一緒に住まない?」
留美は付き合い始めてからずっと考えていたと話す。
「そうだな、麻央が楽しそうに耳すませて聞いてるし…変態か?アイツは。よし!物件探そうか。留美の会社の側がいいかな?」
準基はスマホの賃貸物件のページを開いて留美の会社近くの物件を探し出した。
「やだ。会社近くは嫌。」
留美は首を振り絶対に嫌だと準基に訴える。
「え?でも近かったら留美も楽じゃない?」
「アイツに・・・家がバレるのも嫌だし・・・それに準基が通うのに遠くなるからイヤ。・・・実家の近くにしよう!せめて駅の近くのマンションとか?」
留美はパソコンをつけ二人で見れるようにした。
「そうだな。じゃあそうしようか。2LDK?」
「う~ん・・・3LDKは?だって結婚したら・・・子供出来たら・・・。」
「え?!こっ!子供!?」
「うん・・・そんなに真っ赤にならないでよ!こっちまで恥ずかしくなるじゃない・・・。」
留美は頬を抑え準基をちらっと見ると準基も留美を見て抱き寄せる。
「留美・・・しよ?」
「えー・・・麻央ちゃん聞いてるもん・・・。」
「じゃあ留美の部屋行く?」
「ベッド小さい・・・。」
「年内に引っ越せるかな?」
「明日賃貸物件の会社行こう?」
「そうしよう。早く終わるように頑張るよ。」
「うん!ねぇ・・・準基・・・声我慢するから・・・・」
「・・・留美、可愛い。」
二人で布団に入ってイチャイチャした。
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