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壱
『はァい、私だろ? 今、どこに居る? きっと博物館だよね』
いきなりの知らない声にビビッて、ジーナは受話器を両手で遊ぶ羽目になった。
落としそうになって、しかしこれはだいじな文明の発展のあかし、と、このモノの価値をコンマ何秒かで思いだして、しか、と、握りしめた。
ぐるぐるコードにぐるぐる番号入力の黒電話。
あのサザエさんにでてくるあれ。
静かな電話博物館の空気は、女子高生のおイタがわざとでないことを了解し澄んでいる。
と、云おうか、ジーナの居るここは防音設備のある個室だ。
前世紀の遺物と、現代の最先端とで会話してみよう!
と、だいじな遺物からスマホへ回線がつながる展示物の一部だ。
古すぎるアナログと新しすぎるデジタルの回線結ぶのがえらいこと大変だったらしいが、だから大人ってすごーい、と、ジーナはどきどきほくほくでダイヤルしたら、なんだこれ。
『あ、聞こえる。ちゃんと通じてるよやっほー』
受話器を落としそうになった声と音が聞こえたんだろう。
確保し耳にあてた受話器から聞こえる、のほほんとした返答の声。
知らない声だ。
「え、あの、どちらさま?」
友達の番号をジーコロジーコロしたはずなのに、知らない女の声。
『女流作家のジジっつーもんだよ。わかるだろ? 仔猫ちゃん』
「あ、すいませんまちがえましたー。失礼sm」
『切らないでね』
言葉尻をつかむ強い声。
『あはは、動揺するよね、そうだよ。あんたの夢かなうの。ね? 私』
ひょっとしてなのかな?
クッション性の良いソファに、ジーナは腰を据えた。
この声から判断して推定年齢おばさんな女性と話してみようもうちょっとでも、と、決めたので。
時計を見ても友達との合流時間までゆったりだったし。
おばさんのフルネーム、本名は赤木ジーナ。
対して女子高生のフルネームも、赤木ジーナ。
ジジ、と云うあだ名で呼ばれている。
ペンネーム・赤井ジジのおばさんは、未来のジーナ本人だそうだ。
ふたりともジーナでややこしいので、年増をジジ、若人をジーナと呼ぼうと決めた。
たった今若人がかけた電話が年増に繋がることを、若人より先の未来で生きてて経験済みの年増は、若人にさらりと説明してくれた。
その説明のわかりやすさは、さすが言葉でメシ喰ってる女のモノだった。
「すごいや、予感してたんだけど、私なれんだ。作家」
『その根拠のない自信を失わず、努力を怠らなければね』
がんばる! と、息も荒く目をキラキラさせる女子高生の自分を思いだして、ジジは笑ってしまった。
かーわいい、青―い。
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