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 大浴場というからさぞ広い場所を想像していたが着いたのは作業場の勝手口から石を渡った、いつもの浴場だった。 澤村も呼んでいたのか、勝手口を出たところにある入口に立っていた。そうして浴場の扉へ銭湯ですっかり疲れを癒したあと、澤村とは風呂から上がって廊下で別れた。 「いやあ、いい湯でした」  銀次はともかく時雨までトウの部屋に来た。 「今夜は(うたげ)と行きやしょう!」 「いいですねえ、ではとっておきの酒を持ってきますか」 「やったー! トウさんは飲めるんでい?」  ――まあいいか。  口角をあげながらトウは「少しなら」と頷いた。  時雨と銀次が交互に話し続けて、酒も台所からくすねたつまみもどんどん減っていく。社会に出てからほとんど他人を入れることのなかった部屋がすっかり大学時代のように荒れ果て、三人はいつの間にか雑魚寝していた。 カチッと空がシャッターを切る。 トウは久しぶりに、寝違えた痛みと二日酔いで目が覚めた。昨夜は歌って踊って、たった三人なのに宴会のようだった。トウは覚えていないがスマホで動画も撮っている。銀次は初めて見るスマホに怯えながらも使い方をマスターし、時雨に関してはその多機能と画質の良さに驚きながらもノリノリでポーズを決めていた。 何かを忘れたいように飲み続ける時雨を心配していたが、酒が回ってくるといつの間にかトウと銀次も手拍子を打っていた。カメラフォルダにはそんな三人の楽しげな様子がばっちり残っている。 ソファで一升瓶を抱えている時雨の横をそろりと渡り、ベッドを占領している銀次を荒々しく(また)ぐ。  ハリボテの窓枠をがらりと開けるとなんてことのない庭から朝の風が吹き込む。ほのかに春の、埃っぽい匂いがした。 潜入は今夜。絵の具を塗りたくったような青空に向かって、トウは「よし」と小さく呟いた。
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