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「ごめんくださあい」  おそるおそる、トウは煙草屋の窓を叩く。覗いてみても誰もいないので隣の戸を開けると段ボールや空きビンに詰まった駄菓子がぎっしりと陳列してある。この辺の商店は店舗と住居が一体となった町屋造りがほとんどだ。ごめんください。もう一度奥の座敷に声をかけても返事はない。 夜郷が世話になっているはずの店はしんと静まり返っていた。諦めて帰ろうとしたとき、ちりんと鈴の音が聞こえた。振り返ると通り庭の奥へ向かう猫の影がちらりと見える。なんだ猫か、トウがほっと胸をなで下ろした瞬間。  ――ジリリリリリ! 「えっ、え、電話?」  店先に置いてある黒電話が勢いよく鳴り響いた。有来邸に来る前のトウだったら家の固定電話など面倒がって無視していた。知らない家ならなおさらだ。しかしここは潜入先で最近店番の仕事をしていることもあり、トウは咄嗟に受話器を取ってしまった。 「はい福良商て……じゃなくて煙草屋、なんだっけ? すみません客なんですが誰もいなくて」 「ふふふ」  電話口の声が笑っている。あのどちら様でしょうか、と尋ねると聞き覚えのある声が耳に響いた。 「やあすまない、夜郷はいるかい?」  そう続けた声は紛れもない。 「もしかして……澤村、さん?」 「ふふ、ご名答」  久しいね、という言葉にトウは腰が抜けてしまいそうになった。同時に屋敷で見た電話を受けている澤村の姿を思い出す。
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