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瞳の周りに染みたネコテラスの涙をゴンが拭う。
ネコテラスはゴンに触れると「ありがとうゴンちゃん」と礼を言った。
「薄い朝陽の部屋で、アタシはあの子の匂いを嗅いだ。本当に死んでいるのか、って。あの子は全く動かなかった。口から舌がちょんとはみ出て、体はカチカチに固まっていた。目が細い糸のように伸びて美しかった。アタシは思った。ああ、終わった……って。でも不思議と取り乱したりはしなかった。アタシは冷静にあの子を見下ろしていた。疲れ過ぎたのかな。言いたい事は全て言い尽くしたからかな。空虚な気持ちで、あの子の亡骸をただ撫でることしか出来なかった。■
そしたらね、いきなりご主人がアタシを払い除けるように、あの子に心臓マッサージをし出したの。指先だけで、それでいて力強く。それからあの子を掬い上げて顔中に当てた。アタシは驚いた。ご主人がそのまま号泣したの。家中に響き渡るくらいに。ご主人の声で子供たちが目を覚ました。アタシは子供たちに事実を伝えた。皆なんとも言えない面持ちで、泣きじゃくるご主人のそばに寄って行った。ご主人は泣き止まなかった。ただずっとひたすら泣いていた。アタシはご主人の横顔を見つめながら、お医者さんの時を思い出した。微妙に掠れた声……? ちょっとだけ目が赤かった……? その意味? 悲しさが混じるなか、アタシはただ嬉しかった。ご主人は……あの子が好きだったんだ。あの子を大切に思っていたんだ。やっぱり愛してくれていたんだって――!」
ネコテラスは大きく張った声を切ると、ゴンににっこりとほほ笑んだ。
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