初恋の人

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初恋の人

 荒い息、紅潮する頬、額に浮かぶ汗。  苦しげな表情を浮かべ走るあいつをグラウンドに見つけ、俺は今日も足をとめる。  そんなに苦しいならやめればいいのに​──  他の部員はもういない。 とっくに部活も終わり人も疎らなその校庭には俺とあいつだけ。 こうやって走っているあいつを見つけ、ぼんやりと眺めてから帰るのがいつからか習慣みたいになっていた。  自主的に練習しているのか、それとも居残り練習をさせられてるのか……そんなことはどうでもよかった。  俺は初めて人に見惚れた。  長い手脚が計算されたかのように前へ繰り出され、風を切り走る。 周りのものなど気にもとめずに夢中で走るその姿をずっと目で追った。  今日も俺の視線になど気がつかずに走り続ける。  褐色の肌に浮かぶ汗までもが美しく見え、だんだんとその肌に触れたくなる衝動に駆られる。 躍動する筋肉に伝う汗が夕日に照らされ、官能的にも見えた。  どうかしている………  いつの間にか俺はあいつに夢中になっていた。 この感情が何かはわからないけど、きっと恋と同じなのだと思う。  走る姿を見て欲情している俺に、自分自身もどうしたらいいのかわからなかった。できるのはただこうやって見惚れることだけ。  ふと我にかえると目の前に息を切らしたあいつがいた。 「いつも見てるよね……俺のこと」  鋭い視線に射抜かれ、瞬きさえも忘れてしまう。  首筋に汗が伝うのがわかった。
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