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その一撃が、ボクの胸を貫いた。
刃が引き抜かれ、地面に転がった。地面に血が広がっていく。
ボクの血だ。
苦しい。息ができない。
力が抜けていく。意識が遠くなっていく。
──とても寒い。
目がかすみ、やがて傷みは、ほとんど感じなくなっていた。
なんでかな。
昨日食べたごはんとか、血は熱いんだ。
とか、そんなことが思い浮かんでしまう。
そして何より。
「どうして……?」
自然と洩れた言葉。頬を伝う涙。
分かってる。
もう、あの暖かくて、居心地のいいお城には戻れないんだ。
勇者様、勇者様。みんながそう呼んでくれた日々が、走馬灯のように駆け巡る。
……あれ? そもそも、ボクの本当の名前って、なんだっけ?
誰かがボクの前に立った。
もう目も見えないし、耳も聞こえない。
それが誰かも、分からない。
「あなたは本当は」
そう聞こえた気がした。
そしてボクの首にめがけて、最後の一撃が振り下ろされた──
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