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「はっ!」
ベッドから飛び起きて、すぐに辺りを見回した。
ボクの部屋だ。
体のどこにも穴が開いてないし、首も繋がっている。
あまり思い出せないけど……とても嫌な夢を見た気がする。
寝汗で全身が、びっしょり濡れていた。
「おはようございます勇者様。お顔色が優れませんが……悪い夢でも?」
「おはよう、双葉。うん、悪い夢を見てたみたいだよ」
「そうですか。でも、夢でよかったですね」
双葉の優しい微笑み。
彼女は城に仕える侍女で、ボクのお世話係であり、母のような存在だった。
並べられた朝食の席につき、いつもの朝が始まる。
普段より遅い朝食だったせいもあって、部屋にノックが響く。
ドアが開くと、見知った顔が入ってきた。
「勇者殿──おっと、まだ食事中でござったか。さあさ、今日は鍛錬の日でござるぞつ。後ほど道場で、拙者と手合わせを致しましょうぞ」
彼は一条。戦場での身のこなしや剣のことは、基礎から教えてもらった、父のような存在。
「はっ、はい、うっ!」
パンを喉に詰まらせているとすぐに駆け寄ってくれた。
「勇者殿、食事中といえど油断は禁物でござるぞ、敵はいついかなる時に襲いくるとも限らぬ、今この瞬間にも──」
「こりゃあ!」
演説を始める一条を、後ろから小突く者がいた。
「一条! 貴殿が突然、鍛錬の話をするから、勇者様はびっくりされたのじゃ! 場をわきまえんかっ!」
「まあまあ剛毅。そんなことは、うん、まあ、あるけど……」
ボクは正直にそう答えた。
「いやはや、まことに申し訳ないっ」
一条は深々と頭を下げてくれる。
そう。彼らがこんなにもよくしてくれるのは、ボクが勇者だからだ。
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