一章

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「はっ!」  ベッドから飛び起きて、すぐに辺りを見回した。  ボクの部屋だ。  体のどこにも穴が開いてないし、首も繋がっている。  あまり思い出せないけど……とても嫌な夢を見た気がする。  寝汗で全身が、びっしょり濡れていた。 「おはようございます勇者様。お顔色が優れませんが……悪い夢でも?」 「おはよう、双葉(ふたば)。うん、悪い夢を見てたみたいだよ」 「そうですか。でも、夢でよかったですね」    双葉の優しい微笑み。  彼女は城に仕える侍女で、ボクのお世話係であり、母のような存在だった。  並べられた朝食の席につき、いつもの朝が始まる。  普段より遅い朝食だったせいもあって、部屋にノックが響く。  ドアが開くと、見知った顔が入ってきた。 「勇者殿──おっと、まだ食事中でござったか。さあさ、今日は鍛錬の日でござるぞつ。後ほど道場で、拙者と手合わせを致しましょうぞ」  彼は一条(いちじょう)。戦場での身のこなしや剣のことは、基礎から教えてもらった、父のような存在。 「はっ、はい、うっ!」  パンを喉に詰まらせているとすぐに駆け寄ってくれた。 「勇者殿、食事中といえど油断は禁物でござるぞ、敵はいついかなる時に襲いくるとも限らぬ、今この瞬間にも──」 「こりゃあ!」  演説を始める一条を、後ろから小突く者がいた。 「一条! 貴殿が突然、鍛錬の話をするから、勇者様はびっくりされたのじゃ! 場をわきまえんかっ!」 「まあまあ剛毅(ごうき)。そんなことは、うん、まあ、あるけど……」  ボクは正直にそう答えた。 「いやはや、まことに申し訳ないっ」  一条は深々と頭を下げてくれる。  そう。彼らがこんなにもよくしてくれるのは、ボクが勇者だからだ。
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