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女子、あの手この手の登校時
「おはよー……」
沙理がかなりどんよりした空気を背負って、駅の出口で美宇に声を掛けた。
「おはよう! どうしたのよ、朝から疲れてるわね。」
「それが聞いてよ。実はさー」
沙理の話によると、満員電車で隣り合わせたオヤジが、イヤホンでおかしな音声を聴いていたのだという。
嫌悪感を覚えた沙理が耳を背けると、なんとそのオヤジ、ボリュームを上げた上に「君、名前なんて言うの?」と訊いてきたというではないか。
「なにそれ! 完全にヘンタイじゃない!」
「そうなのよ! でも、満員電車の中じゃん? 逃げるに逃げられなくて……」
うんざりと怒りとイライラで消耗した沙理がうつむくと、その背中を美宇がバン!と叩いた。
「そんな時に、すごく効く言葉があるわ。」
「え、なに? 私、基本的に他人に何か言う勇気ないけど。」
「言わなくていいの。ただ、心の中で言うのよ。
ーー『男にセクハラして喜ぶなんて、コイツただのバカじゃん。』って。」
「え?」
どういうこと?と顔いっぱいに書いてふり向いた沙理に、美宇は言った。
「自分をゴリラ男だと想定するのよ。
その上でその時のことをちょっと思い出してみて。」
沙理は前方の一点を見つめていたが、不意に吹いて爆笑した。
「た、ただのバカだ、あのオヤジ! なにチャレンジしてんの!?」
「でしょ? 自分がゴリラ男だったら、真に受けることもないわ。そんな奴、完全に格下よ。片付ける気になれば、一捻り。」
「くだらなすぎたwww」
思いきり笑った沙理は、気が晴れたようだ。
「あー、笑えた。ありがとう美宇。」
「どういたしまして。」
「笑ったら、お腹空いちゃったなあ。」
ちょうど、いつもの甘味処が見えてきたところだ。沙理は店を見ている。
「まだ開店前よ。
とりあえず学食前の自販機でなんか飲も。」
「うん! 寒いからホットオレンジにしようかな。」
「私はミルクティーかな。」
二人は学園通りの人波に紛れていった。
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