2人が本棚に入れています
本棚に追加
隊長の話はこうだ。一月ほど前、国王が急な病で倒れた。その噂は城下のハンスたちの耳にも届いていた。一時期様態が危ぶまれもしたが、幸い今は回復している。
「お労しいことに、陛下は三日三晩苦しみ、うなされておられた。宮中の医師たちが、あらゆる治療を試みても効果がなく、途方に暮れていたところ、魔女が現れたのだ」
魔女の与えた薬のおかげで、王の病はたちどころに治った。去り際に彼女は一つの要求をした。
この次の満月の夜に魔女たちの祭りがある。それまでに、今年二十一歳を迎える「ハンス」という青年を差し出すようにとのことだった。魔女は「ゆめゆめ忘れるでないぞ、さもなくば、この国に災いあらん」と言い残すと、ふっと姿を消してしまった。
魔女が去った後、皆は途方に暮れた。
大体、ハンスなんて名の男は国中にごろごろ居る。ハンスであれば誰でもいいのか、あるいは特別なハンスなのか、一人で良いのか、数人必要なのか、あるいは全員なのか、魔女の要求はあまりにも漠然としていた。
しかし、次の満月までさほど時間もない。取りあえず、組合名簿に載っているハンスの中から、条件に該当する者を片っ端から選んで、魔女の住まう場所に連れて行くことにした、という訳だった。
二十一とは何とまた半端な数だな、とパン屋のハンスがぼんやり考えていると、四方のハンスたちから口々に不満の声が上がった。
「無茶苦茶だ」
「バカバカしい、冗談じゃない」
「俺は女房が待ってるんだ」
「うちは来月三人目が生まれるんだ」
「本当か? そりゃ、大変だな」
ぎゃあぎゃあと喚き立てるハンスたちに向かって隊長は怒鳴った。
「黙れ、この不心得者どもが。陛下のお役に立てるのだぞ。むしろ、光栄なことと心せよ」
最初のコメントを投稿しよう!