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王子のヨハネス
兵士たちがぱらぱらと周りを取り囲んで、剣を向けたので、ハンスたちはそれ以上何も言えなくなった。ギルドホールで一晩過ごした翌朝、ハンスたちは数台の馬車に分かれて町を出た。馬車といっても荷馬車だ。丈夫な板で囲われ、柵まで付いている。おそらく牛や羊や豚を運ぶためのものだ。
パン屋のハンスは荷馬車の角で、うつらうつらと舟を漕いでいた。ギルドホールの床が硬過ぎて、昨夜はよく眠れなかったのだ。馬車が揺れるたびに起きては寝てを繰り返していたが、ガクンと強い揺れが来た拍子に、すっかり目が覚めた。
目を開けると他のハンスたちが、荷台の真ん中で顔を寄せて何やらごそごそと話していた。
「先頭のあれ、あいつだろ、ヨハネス王子だろ?」
「ヨハネス王子だって?」
ハンスたちは、一斉に顔をしかめた。
ヨハネスと言うのはこの国の第三王子だ。柔らかく波打つ金色の髪、湖のように深く青い瞳、加えて端正な顔立ちの美男子と揃えば、誰もが放ってはおかない人気者、と言いたいところだが、そうではない。
この王子の評判は芳しくなかった。いかんせん女癖が悪すぎる。好みの女と見れば、なりふり構わず口説きにかかって、しつこくつきまとう。靡いたところで、しばらく遊ぶとすぐに飽きて他の女を探し始める。泣かされた女も多く、身分の上下、老若男女を問わず、身内に年頃の娘がいる者は皆、彼の目にとまらぬよう注意を払い、戦々恐々としていた。
確かこの間も、婚礼間近の大臣の娘に手を出そうとして、大目玉を喰らい、目下謹慎中のはずだ。
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