王子のヨハネス

2/2
前へ
/9ページ
次へ
「さっさと身を固めればいいんだよ」  そう言ったのは靴屋のハンスだった。昨日「女房が待ってる」と言ったのはこの男だろう。 「嫁を貰えば人生変わるさ」  隣のハンスがうんうんとうなずいた。 「子は(かすがい)って言うしね」  こちらは今度三人目が生まれるハンスだろう。  ハンスたちはそう言っていたが、ことはそう簡単ではなかった。何しろあの行状では、どんな面倒を起こすかわからない。名門各家は理由を付けて王子との縁談を丁重に断っていた。  かと言って他国の王女や貴族との縁談もままならない。王子の噂は周辺諸国津々浦々まで知れ渡っている。あちらで大きな問題を起こせば笑い事ではすまない。彼のことは父親である国王にとって一番の悩みの種だった。 「でも、一体何でまたあの殿下が、今回仕切ってるんだ?」 「実は、昨日兵士どもの話をちょっとばかり小耳に挟んだんだが」  一同が首を傾げる中、耳ざとい鋳掛屋(いかけや)のハンスが言い出した。 「この間の王様の(やまい)ってのが、どうも食い物に当たったのが原因らしい」 「食い物、どんな?」 「王子の一人が贈ってよこした狩りの獲物(えもの)を食べて、腹を壊したんだと。その王子ってのが」 「まさか?」  そののヨハネス王子だった。父王の機嫌を取ろうとしたことが、まるっきり裏目に出てしまったのだ。今回の任務も自分から名乗り出たらしい。汚名返上に必死ということか。しかし…… 「阿呆らしい。何であいつの尻ぬぐいを俺たちがしなきゃならないんだ‼︎ 」 「おまえたち、静かにしろ」  兵士に荷馬車をドンドンと突つかれて、ハンスたちは声を低めた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加