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「さっさと身を固めればいいんだよ」
そう言ったのは靴屋のハンスだった。昨日「女房が待ってる」と言ったのはこの男だろう。
「嫁を貰えば人生変わるさ」
隣のハンスがうんうんとうなずいた。
「子は鎹って言うしね」
こちらは今度三人目が生まれるハンスだろう。
ハンスたちはそう言っていたが、ことはそう簡単ではなかった。何しろあの行状では、どんな面倒を起こすかわからない。名門各家は理由を付けて王子との縁談を丁重に断っていた。
かと言って他国の王女や貴族との縁談もままならない。王子の噂は周辺諸国津々浦々まで知れ渡っている。あちらで大きな問題を起こせば笑い事ではすまない。彼のことは父親である国王にとって一番の悩みの種だった。
「でも、一体何でまたあの殿下が、今回仕切ってるんだ?」
「実は、昨日兵士どもの話をちょっとばかり小耳に挟んだんだが」
一同が首を傾げる中、耳ざとい鋳掛屋のハンスが言い出した。
「この間の王様の病ってのが、どうも食い物に当たったのが原因らしい」
「食い物、どんな?」
「王子の一人が贈ってよこした狩りの獲物を食べて、腹を壊したんだと。その王子ってのが」
「まさか?」
そのまさかのヨハネス王子だった。父王の機嫌を取ろうとしたことが、まるっきり裏目に出てしまったのだ。今回の任務も自分から名乗り出たらしい。汚名返上に必死ということか。しかし……
「阿呆らしい。何であいつの尻ぬぐいを俺たちがしなきゃならないんだ‼︎ 」
「おまえたち、静かにしろ」
兵士に荷馬車をドンドンと突つかれて、ハンスたちは声を低めた。
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