ハンスの心残り

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 (しば)られていて、両手を組めなかったが、ハンスは(こうべ)を垂れて、祈りの言葉を唱え始めた。一心不乱に祈っているうちに、すうっと気分が落ち着いた。やはりお祈りは良いものだ。  平静に戻ると、今度は別のことが気になり出した。昨日ハンスはとんでもない失敗をやらかしてしまったのだ。  パン屋の親方は、ハンスの熱心で真面目なここ何年かの働きぶりを見て、試しに自分でパンを焼いてみないか、と声をかけてくれた。  親方の言葉はハンスをいたく感激させた。しかし、期待に応えようと張り切りすぎて、あろうことかハンスは材料の配分を間違えてしまった。気がついたのは(かま)に入れたあとだった。  焼き上がったパンは、もうそれは(ひど)い代物で、口にできるものではなかった。親方は苦笑いして、また今度と言ってはくれたが、(あき)れていたに違いない。果たして次の機会があるかどうか。  その後、すぐ兵士たちが来て、店から連れ出されてしまったので、まだ後片付けも全部は済んでいなかった。他のみんなにも迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。  ハンスが落ち込んていると、パカパカという馬の蹄の音と共に、ガタゴトと車輪の音が聞こえてきた。  音の方を見やると、一台の荷馬車が近づいてきた。荷馬車を(ぎょ)しているのは、やや華奢な体つきの少年だった。目深に帽子を被り、端から亜麻色の髪がはみ出していた。服装は薄汚れていて、(ほお)にも泥の跳ねた後があった。
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