馬丁のブラン

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馬丁のブラン

 荷馬車は速度を緩め、ハンスたちの馬車と、一時並んだかと思うと、再び速度を上げて追い越して行った。  すれ違い様、一瞬御者の少年がちらりとこちらを見たので、目が合ったような気がした。荷台には(まぐさ)と樽などが積んであった。  あんな年頃で、しっかり手綱をさばいているなんて凄いな、とハンスは感嘆した。自分なんか馬に()められていて、道で出会えば威嚇(いかく)されたり、馬糞を蹴って飛ばされることもしばしばだ。  荷馬車が去ってから、しばらくすると喇叭(らっぱ)が鳴った。鳴り終わると馬車が止まった。ここで休憩のようだ。前の方から順番に水と食事が配られ始めた。 「よし、逃げよう」  鍛冶屋のハンスが言った。 「もうすぐ食事を配りに来る。そうしたら、(すき)を見て俺が体当たりする」 「ちょっと待てよ」  女房持ちのハンスが口出しした。 「食べるんだったら、縄を少しは(ゆる)めてくれるかもしれないだろう。その後の方が良くないか?」 「そうだな、では少し待ってから――」 「おまえらのは縄は(ほど)かん」 「へっ?」  荷台の後ろがいきなりガクンと開いた。そこには食事を運んできた兵士たちが立っていた。 「筒抜(つつぬ)けだ、この馬鹿どもが。おい、そこのおまえ」 「はい?」  兵は隅っこにいたパン屋のハンスを指した。 「あいつらの食事の世話をしろ」 「はい」 「逃げるなよ」 「はい」 「神にかけて誓えるか」 「はい」  しまった、とハンスは思った。ついはずみで神様に誓ってしまった。      
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