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こうしてハンスは、一旦縄を解かれたまのの腰周りに結び直されて、兵士たちが見守る中、他のハンスたちの食事の面倒をみることになった。
彼らは手が使えないので、各人の口にパン運んでやり、水を飲ませる必要があった。
「くそっ、あいつら盗み聞きするなんて卑怯だ」
「……おまえの声がでかいんだよ」
ハンスたちはぶつぶつとぼやいた。
鋳掛屋のハンスはパンを飲み込んだ後、ハンスにありがとうと礼を言うと、そっと耳打ちした。
「なあ、俺の縄ちょっとばかり緩めてくれないか」
「そこのおまえ、何を話している」
すかさず、兵士が見咎めた。
「いや、ちょっと礼を言っただけですよ、旦那」
鋳掛屋のハンスはへらへらと愛想笑いで取り繕った。
ハンスたちは、それきり大人しくなった。ここは下手に騒がず様子を見ることにしたのだろう。
皆に食事を出し終わった頃、パン屋のハンスは大事なことに気づいた。自分の食べる分がなかったのだ。
「何をしてる。済んだなら早くこっちに来い」
外の兵士が手招きした。
「あの」
「何だ?」
ハンスは、自分は何も口にしていない、と伝えようとしたが、兵士が怖い目で睨んだので、そのまま何も言えなくなってしまった。
再び縄を掛けられようとした時、何者かがハンスにパンを差し出した。先ほどの御者の少年だった。
「どうしたんだ、ブラン?」
この少年はブランと言う名らしい。ハンスはやっとの思いで声を出した。
「す、すみません、まだ食べてないんです」
「それなら、さっさと言え。おいブラン、ついでに馬を見てくれないか?」
ブランは微かな声で「ああ」と返事をすると、くるりと背を向けて馬の方に向かった。ハンスは少年に、ありがとう、と礼を言った。
「無愛想なやつだな」
兵士はそうつぶやくと、早く食べるようにとハンスを急かした。ハンスはむしゃむしゃとパンを頬張った。
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