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パン屋のハンス
「どうか神様お救いください」
ハンスは祈った。物を盗んだことも、人を傷つけたことも、ましてや殺めたことなどない。
一日三回、神様へのお祈りはかかさないし、早寝早起きを心がけ、仕事に遅れたことはない。毎日真面目に働き、親方やお客さんに挨拶だってきちんとしている。なのに何故こんな目に遭わなければならないのか。
今、ハンスは縛られて、ギルドホールの床に転がされていた。周りにはハンスと同じようにぐるぐる巻に縛られた若者が何人も転がっていた。一、二、三、四、五……ハンスの指は両手足揃って二十本しかないから、それ以上はわからない。
その日の昼頃のことだった。ハンスが働く店に、兵士たちがドヤドヤとやって来て、皆が呆然とする中、有無を言わさず彼を引き立てて行ったのだ。
よく見ると。ところどころ知った顔がある。右に靴屋のハンス、左は粉屋のハンス、それから向こう側は鋳掛屋のハンス。ちなみに自分はパン屋だ。
もしかしたら、とハンスは思った。どうやら、ここに居る者は皆「ハンス」らしい。
ハンスが慣れない頭で不審と不安に悩んでいると、カツカツカツと靴音がして、鎧を着た男が入ってきた。ハンスを捕らえた兵士たちより、少しばかり良いものを身につけているから、おそらく彼らの隊長だろう。
「喜ぶがいい、おまえたちは選ばれたのだ」
男は朗々と響く声で言った。
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