序章

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 「ハァ‥‥ハァ‥‥!」  草木も眠る丑三つ時。それも過ぎた頃。  一人の女子学生が息を吐いていた。  場所は風呂場。手にはカッターナイフ。水の張った浴槽には沈めた人形。  ただ真夜中の入浴を楽しむ目的では無く、本来とは違う用途で風呂場を使っていることは容易に想像出来た。  彼女は人形を見下ろしている。  カッターの刃は赤黒く濡れており、よく見ると浴槽の水もそれに染まっている。  彼女の陶磁器のように白い手首からは、不釣り合いな赤黒い線が切り開かれている。そこから液体が溢れ出ていた。  「ハァ‥‥ハァ‥‥!」  突然、赤黒く染まった手で浴槽に手を突っ込み、人形の首を絞め、引き上げた。獲物の息の根を止める猛獣のような俊敏な動きで、狂気すら感じる。  「ーーーー!!!!!」  言葉にならないうめきを上げ、赤黒い水を滴らせる人形を風呂場の床に叩きつけた。  カッターをギリギリと握り締める。  そして振り上げ、抵抗無く人形に振り下ろした。  「ーーッ!!ーーッ!!」  言葉も無く息を荒げ、何度も何度も振り下ろす。  無機物な人形に対して、有機物に対する恨みを発散しているような、八つ当たりにしか見えないその行動。しかし、その人形の向こう側に存在する、彼女の本当の恨みの対象を切り裂く確かな手応え。それを彼女は確実に感じていた。  人形は赤黒く染まっている。  浴槽の水と、何より彼女の手首から溢れたものがかかっているので当たり前なのだが、何故かそれが人形から出ているように見えた。  「ーーッ!!‥‥‥はぁ‥‥」  ひとしきり人形をズダボロにして満足したのか。彼女はため息をつき、立ち上がった。  再び人形を見下ろす。  疲れ果てた顔。しかし、その目は爛々と狂気に輝きを増している。。込めた恨みの底を称えているような、憎悪の黒い光を宿した目だ。  しばらく見下ろし、やがて彼女は呟いた。  「次の鬼は
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